木の葉を掃(は)いていた武隈(たけくま)は、近づいてきた見知らぬ相手にバッタリと正面で出会い、声をかけられた。
「やあ、武隈さん…」
驚くことはなかったが、突然のことだったから、武隈はアングリした気分になった。アングリとは、何とも言えない呆然(ぼうぜん)とした気分である。その場しのぎは家庭内の場合ならいいのだろうが、一度(ひとたび)家の外へ出れば、許されない態度なのである。右か左か、白か黒か・・の判断を社会は問う訳だ。その場は「はあ…」と暈(ぼか)してコトなく応じ、しばらくして武隈は職場へと出かけた。
武隈が勤める県事務所は徒歩で数分のところにあった。自宅に近いこともあってか急ぐ要もなく、武隈は通勤に何かと重宝していた。ところがその日に限り、歩道で見知らぬ相手にまた声をかけられたのである。
「やあ、武隈さん…」
武隈は驚きはしなかったが、ふたたびアングリした気分になった。
「はあ…」
思わず口籠(くちごも)って暈した武隈だったが、開庁の出勤時間が近づいていた。腕を見ながら相手の記憶を辿(たど)ったが、結局、思い出すには至らず、武隈はその場しのぎの言葉を発して暈し、庁舎へと急いだのである。
バッタリ出会った見知らぬ相手に応じた場合、アングリした気分でその場しのぎの言葉を発するようです。^^
完