風にもいろいろあるが、驚く風は嫌だろう。暴れまくる台風の風がそれに代表されるが、秋の微風ように楚々と吹けば、同じ風でもランクはかなり上となり、神仏に近いと推察される。
十五夜の月が煌々と蒼白い光を縁側に映している。お月見の団子、芒(すすき)・・舞台設定は出来ていて、ご隠居は一人優雅に満月を愛(め)でながら冷酒をグビリっ! とひと口飲み、薄塩で茹(ゆ)でた鞘豆(さやまめ)を頬張る。秋の風情が漂い、実にいい感じだ。と、そこへ一匹の子狸がお団子目当てに近づいてくる。ご隠居は少し驚くが、秋風に心を落ち着かせ、三宝の上に飾られたお団子の数個を子狸に与えようと庭へ撒(ま)く。子狸は美味しそうにその団子を頬張り、どこへとなく消え去る。遠くで子狸の腹鼓(はらつづみ)がポンポコ・・と聞こえる。実はご隠居の耳鳴りである。秋の夜は静かに更けていく。酔いが回ったご隠居は、いつのまにかウツラウツラと微睡(まどろ)み始める。微風が紅潮したご隠居の頬を掠(かす)めて吹き抜ける。
驚くことがない、こんな風はいいですねっ!^^
完