周辺で騒ぎがあればコトの大小に関わらず、多かれ少なかれ驚くことになる。ふ~~ん…とか、なんだ、そんなことか…などと思う方はそう騒ぐこともないのだろうが、神経が細やかな方は、いろいろとメンタル[心理]面でデフォルメ [誇張]され、騒ぐことなるだろう。^^
大都心のとある有名百貨店である。一人の客らしき男がバタつき、アチラコチラとフロアを探している。
「ど、とこへ落としたんだっ!」
男は自分が歩いてきた経路を逆方向へと辿(たど)り、フロアに視線を落としながら必死の形相で右へ左へと探し続ける。通行する客は、何事だ…とチラ見しながら、コトなかれ主義で避(さ)けるように通り過ぎていく。そこへ売り場の女性係員が売り場へと戻ってきて、フロア前で探し回る男に気づいた。
「あの…どうされました? お探し物ですか?」
男は、見りゃ分かるだろっ! と少し怒れたが、そうとは言えず、やや声高(こわだか)に返した。
「…何か落とされたんですか?」
男はふたたび、見りゃ分かるだろっ! と思ったが、やはりそうとも言えず、「そうですっ!」と声をさらに大きくした。
「何ですかっ!」
「財布ですよ、財布っ!」
男は、お前は刑事かっ! と思いながら財布を強調した。女性係員はそれを聞き、男に従うようにフロアを探し始めた。そこへ通行客が数人、二人に気づき、左右から近づいてきた。
「…何かお探しですか?」
「ええ、お客様がお財布を落とされたんですよ…」
女性係員から事情を聞かされた客数人は無碍(むげ)にも出来ず、探す輪へと加わった。そうこうして、人の数は次第に増し、騒ぎとなっていった。
「しばらく、お待ち下さいっ!!」
これ以上、騒ぎを大きく出来ないわ…と判断した女性係員は、小走りして姿を消した。しばらくすると、若い女性がいい声で館内アナウンスを読み始めた。
『五階売り場前の通路でお客様が財布を落とされました。習得されたお客様は、お手数ですが三階サービスカウンターまでお届け下さいますようお願い申し上げます』
そのアナウンスを聞いた客達は蜘蛛の子を散らすように消え、騒ぎはいつの間にか鎮まった。
小さなことでも、エスカレートすれば驚くような騒ぎになるものです。^^
完