水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

驚くユーモア短編集 (60)メカニズム

2024年01月21日 00時00分00秒 | #小説

 人が驚くメカニズムを探るのも面白い。ただ、人によって驚くメカニズムは違うから、ある人は驚いても別の人は全然、驚かない・・という程度の差はある。
 真夏の夕暮れである。すでに陽は西山へと没し、暗闇のベールが辺(あた)りを覆おうとしている。二人の老人が寺の法事を済ませ、夕暮れ前の庫裏(くり)から境内(けいだい)へ出ようとしている。
「暑いですなぁ~」
「ええ、まあ…。夏ですからな…」
「暑いですが、不気味ですな…」
「ええ、まあ…。寺ですからな…」
 そのとき、どこからともなく冷んやりとした風が二人の後方をスゥ~っと通り抜けた。気が弱い老人は、ゾクッ! と身震(みぶる)いし、『ばあさんが迎えに来たか…』と思い、驚いた。一方、もう一人の老人は、驚く素振りも見せず、『そろそろ秋か…』と驚かず、受け流した。しかし、木に止まった蝉にオシッコをかけられ、思わず驚いた。
 このように、人によって驚くメカニズムは異なる訳です。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (59)お年寄り

2024年01月20日 00時00分00秒 | #小説

 もう、そんな年になったんだ…と人に言わず、驚くことなくしみじみと心の底で噛(か)みしめる。辛いが、これも長々と生きてきたあとの自分の姿なのだから仕方がない。すでにお年寄りに仲間入りしているのである。^^
 ここは、とある温泉旅館のエントランスである。
「お金、いいですよ…。市の優待券が使えるお年ですから…」
 当然のように窓口係の女性が風呂崎(ふろさき)に言った。
「ええっ! タダですかっ!?」
「はい。それが何か…」
「いいんです、いいんですっ!」
 風呂崎は、こりゃ儲(もう)かったぞ、シメシメ…と思いながら、外っ面(つら)では美辞麗句を並べた。否定しても、よくよく考えれば、自分も一端(いっぱし)のお年寄りなのである。風呂崎は、別に驚くことでもないか…と思い返し、年を意識しないでスルーすることにした。
 誰でも年を重ねればお年寄りになるのですから、驚くことなく年を素直に受け入れましょう。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (58)部品

2024年01月19日 00時00分00秒 | #小説

 この程度なら修理してもらえるだろう…などと考えるのは、今の時代、甘い。^^
「部品がありませんから…」
「えっ! ダメなんですかっ!?」
 などと、予想外の言葉に私達は驚くことになる。販売元にすれば、自社製品のケアよりも買い替えてもらうことによる利益を優先する時代に立ち至っている訳だ。涙が出るような品々との別れに、ぅぅぅ…と涙することも少なくない。使い捨ての物質文明を進め過ぎた報(むく)いに違いない。映画じゃないが、エクスペンタブルズなのである。^^
「まあ、仕方ないか…。買ってから随分、経つからなぁ…」
 竪堀(たてぼり)は故障した電気製品を残念そうに眺(なが)めながら呟(つぶや)いた。故障した電気製品は平成初期の製品で、部品保有期間10年を優に過ぎていた。
「ジャパニーズ・スピリットが消えたな…」
 竪堀は、第二次大戦敗戦直後の人々の考え方を懐かしんだ。物が無いから修理して使おう…というものを大事にする考え方だ。それが驚くなかれ、今の時代はすぐポイ捨てする時代なのである。竪堀は大げさにも悲しみの涙を頬(ほお)に伝わらせた。
 驚くような文明変化の時代ですが、涙を流すほどのことは、ないように思えます。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (57)植物

2024年01月18日 00時00分00秒 | #小説

 植物は人知れず緩慢(かんまん)[スロー]に動いている。知らないうちに飛んできた種が芽を出していて、驚くことがある。植物の生命力の逞(たくま)しさに驚く瞬間だ。最たる例が雑草である。除草したはずが一週間後には、また同じ程度に生えている。ただただ、この現実には驚く以外にない。^^
 とあるご隠居が、心配そうに盆栽鉢に植えられた竹の寄せ植えを見ている。鉢の竹の寄せ植えは元気なく、勢いがない。そこへ、茶飲み友達で顔見知りのご隠居がひょっこりと裏の垣根から顔を出した。
「…植え替えた方がいいですぞ、その鉢…。まだ、間に合います。なんなら私がやって差し上げますが…」
「ああこれは、お隣の…。ひとつ、よろしくお願いします」
 お隣のご隠居は垣根の戸から入り、ゴチャゴチャと手作業をし始めた。
「やはり、水はけが悪くなっとります。このままですと根腐れ致しますな…」
 そう言いながらお隣のご隠居はハサミを借り、伸びすぎた根を手際よく切り詰めたあと、寄せ植えを水で洗い、用土を新しくして植え替えた。恰(あたか)もプロ並みの手際よさに、ご隠居は驚くばかりだった。
「植物は語りませんからな。私らが注意してやらないと、悪くして驚くことになります」
「はい…」
 お隣のご隠居の言葉に、その家のご隠居は、ただただ聞く人になった。
 植物は語りませんから、驚くことが起こらないようお世話しましょう。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (56)塵(ちり)も積もれば…

2024年01月17日 00時00分00秒 | #小説

 塵(ちり)も積もれば…山となる・・と昔から言われる。何げなく暮らしていて、ふと、気づけば塵が山となっていて、驚く訳である。^^ まあ、こんなどぉ~~しようもない人間には誰もがなりたくはないのだろうが、手間と暇(ひま)がなければ、必然的に塵も積もる。これは致し方ないが、手間も暇もあるのに塵が積もるような人物は話にならない。^^
「田所君、この前言ってた資料は出来上がってるかね?」
「はい、毎年のことですから、抜かりなく…」
「そう! それを聞いて安心したよ、ははは…」
 予算執行調査前の、財務省主計局のとある予算担当職員とある上司の会話である。
「償還金利子の二次国債、また増額です…」
「そうだな。毎年毎年、雪だるま式に膨(ふく)らむばかりだから嫌になるよ、ははは…。まあ、政府与党に物申す党が無いから、スンナリと国会は通るがね…」
「塵(ちり)も積もれば…ですか」
「そうそう。公債発行特例法が上程される前の年度までの赤字額は雀の涙程度だったんだが…」
「予算現額-支出済額で出た不用額が、どういう訳か消えますからね」
「ははは…消える消える、マジックのようにね。流用・充当され、上手(うま)くスゥ~~~っと動くからねっ!」
「だから、塵(ちり)も積もれば…ですか?」
「ははは…今じゃ当初予算額まで膨れてる、ただただ驚くばかりだ…」
「予算執行調査をする意味はあるんでしょうか?」
「仕方ないさ、予算査定のためにやってんだから。予算が組めないからね…」
「国の未来は…」
「今日の天気さ…」
 二人は霞が関のビルの一角から今にも降りそうな薄墨色の空を侘(わび)しく見つめた。
 こんな塵(ちり)も積もれば…で驚くような現実は嫌ですよね。囲碁に例えれば、中押し負けです。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (55)風

2024年01月16日 00時00分00秒 | #小説

 風にもいろいろあるが、驚く風は嫌だろう。暴れまくる台風の風がそれに代表されるが、秋の微風ように楚々と吹けば、同じ風でもランクはかなり上となり、神仏に近いと推察される。
 十五夜の月が煌々と蒼白い光を縁側に映している。お月見の団子、芒(すすき)・・舞台設定は出来ていて、ご隠居は一人優雅に満月を愛(め)でながら冷酒をグビリっ! とひと口飲み、薄塩で茹(ゆ)でた鞘豆(さやまめ)を頬張る。秋の風情が漂い、実にいい感じだ。と、そこへ一匹の子狸がお団子目当てに近づいてくる。ご隠居は少し驚くが、秋風に心を落ち着かせ、三宝の上に飾られたお団子の数個を子狸に与えようと庭へ撒(ま)く。子狸は美味しそうにその団子を頬張り、どこへとなく消え去る。遠くで子狸の腹鼓(はらつづみ)がポンポコ・・と聞こえる。実はご隠居の耳鳴りである。秋の夜は静かに更けていく。酔いが回ったご隠居は、いつのまにかウツラウツラと微睡(まどろ)み始める。微風が紅潮したご隠居の頬を掠(かす)めて吹き抜ける。
 驚くことがない、こんな風はいいですねっ!^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (54)突然

2024年01月15日 00時00分00秒 | #小説

 予想していない物事が突然、出来たときは驚くことになり狼狽(うろた)えるだろう。泰然自若(たいぜんじじゃく)として、ああ、そう…と冷静に受け止められる人は少ないに違いない。何が起ころうと驚くことがない、こんな人になりたいものです。^^
 柿沼は疲れていた。やっと残業が終わり、帰宅したのは深夜の十時だった。
「ただいま…」
『お帰りなさぁ~~い…』
 玄関で出迎えた妻の美登里は、いつもと違い、どことなく顔色が悪い。それに声も弱々しい。
「どうしたんだ? お前…」
『少し前にね…。私、階段から落ちて死んだの…』
「なにっ!!」
 柿沼は驚き、玄関の上がり框(かまち)へ思わず腰を落とした。
『でも、大丈夫。元気に死んでるから…』
「元気に死んでるって、お前っ!」
 そこで柿沼は、ハッ! と目覚めた。職場のデスク机に上半身を俯(うつぶ)せ、夢を見ていたのである。
 夢で突然、死なれ、驚くのは嫌ですよね。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (53)お札(さつ)

2024年01月14日 00時00分00秒 | #小説

 発行されているにもかかわらず、使用頻度(しようひんど)が低いお札(さつ)に二千円札がある。なぜ人々に人気が出ないのか? は分からないが、お札仲間の間で、『あいつは、どこか俺達と違わないか?』などと呟(つぶや)かれ、『そうなのよねぇ~~!』と、お姐(ねえ)言葉で同調されるようなお札なのである。^^ そういえば、他のお札は人物像だが、二千円札だけは建物の守礼の門になっている点もお札仲間の間で異端児扱いされる原因なのかも知れない。そんなあまり出回らないお札が手元に入れば、少しは驚くだろう。今日は、そんなどぉ~~でもいいようなお話です。^^
「おいっ! 船崎(ふなさき)君、ちょっとこの札、前の銀行で千円札2枚に換えてきてくれっ!」
「はいっ! 珍しいですねぇ~、2千円札ですか…」
 課長の波止場(はとば)に頼まれた船崎は、手にした2千円札をシゲシゲと物珍しげに見ながら驚くことなく立ち去った。
 それからしばらくして、銀行へ換金に行った船崎が少しテンションを下げて帰ってきた。
「課長、機械では換金出来ないようです。一万円札、五千円札、千円札、それにコインは出来ますが…」
「なんだ、やはりそうか…。どうすりゃいいんだ…」
「外で使うか、銀行なら窓口換金ですね」
「なんだ、窓口なら出来るのか…」
「らしいですね…」
 波崎はその事実に少し驚いた。
 お札で驚くのは2千円札くらいでしょう。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (52)鍛錬(たんれん)

2024年01月13日 00時00分00秒 | #小説

 ちょっとしたことで驚く人でも、鍛錬(たんれん)することによって少しは驚かなくのではないか? というお話です。^^
 中学一年の谷山は気が小さい男で、誰からもお前は男かっ! と、からかわれていた。谷山としては、僕は男だっ! と言い返したかったが、気が小さいからそうとは言えず、黙って聞き流していた。だが、谷山としては、このまま言われっぱなしというのも癪(しゃく)に障(さわ)るから、よしっ! 鍛錬して男を証明してやるっ! と思うようになった。谷山の思考の導火線に火が点いたのである。谷山はその日から驚かないよう訓練することにした。まず(1)として、驚くことが起きたときを思って目を閉じ、沈思黙考した。目を閉じれば驚くことを避けられるからである。(2)として、木の枝の棒を刀に見立てて剣道のように素振りすることにした。一日に1,000回の実行である。(1)、(2)の努力が功を奏して、谷山は驚くことの呪縛(じゅばく)から解き放たれることになった。
『それが、どうした…』
 驚くことが起きたとき、谷山はその言葉を自分に言い聞かせた。そうこうして、いつしか谷山は誰からもお前は男かっ! と、からかわれることが亡くなったという。
 鍛錬すれば驚くことも驚かなくなる・・というお話です。

                   完


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驚くユーモア短編集 (51)騒ぎ

2024年01月12日 00時00分00秒 | #小説

 周辺で騒ぎがあればコトの大小に関わらず、多かれ少なかれ驚くことになる。ふ~~ん…とか、なんだ、そんなことか…などと思う方はそう騒ぐこともないのだろうが、神経が細やかな方は、いろいろとメンタル[心理]面でデフォルメ [誇張]され、騒ぐことなるだろう。^^
 大都心のとある有名百貨店である。一人の客らしき男がバタつき、アチラコチラとフロアを探している。
「ど、とこへ落としたんだっ!」
 男は自分が歩いてきた経路を逆方向へと辿(たど)り、フロアに視線を落としながら必死の形相で右へ左へと探し続ける。通行する客は、何事だ…とチラ見しながら、コトなかれ主義で避(さ)けるように通り過ぎていく。そこへ売り場の女性係員が売り場へと戻ってきて、フロア前で探し回る男に気づいた。
「あの…どうされました? お探し物ですか?」
 男は、見りゃ分かるだろっ! と少し怒れたが、そうとは言えず、やや声高(こわだか)に返した。
「…何か落とされたんですか?」
 男はふたたび、見りゃ分かるだろっ! と思ったが、やはりそうとも言えず、「そうですっ!」と声をさらに大きくした。
「何ですかっ!」
「財布ですよ、財布っ!」
 男は、お前は刑事かっ! と思いながら財布を強調した。女性係員はそれを聞き、男に従うようにフロアを探し始めた。そこへ通行客が数人、二人に気づき、左右から近づいてきた。
「…何かお探しですか?」
「ええ、お客様がお財布を落とされたんですよ…」
 女性係員から事情を聞かされた客数人は無碍(むげ)にも出来ず、探す輪へと加わった。そうこうして、人の数は次第に増し、騒ぎとなっていった。
「しばらく、お待ち下さいっ!!」
 これ以上、騒ぎを大きく出来ないわ…と判断した女性係員は、小走りして姿を消した。しばらくすると、若い女性がいい声で館内アナウンスを読み始めた。
『五階売り場前の通路でお客様が財布を落とされました。習得されたお客様は、お手数ですが三階サービスカウンターまでお届け下さいますようお願い申し上げます』
 そのアナウンスを聞いた客達は蜘蛛の子を散らすように消え、騒ぎはいつの間にか鎮まった。
 小さなことでも、エスカレートすれば驚くような騒ぎになるものです。^^

                   完


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