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人作りこそ国家再生への道(後編)

2021年06月09日 | 日本
現代日本の政治の混迷は、人作りの失敗から来ている。

(我が先人たちの背骨を作ってきた『論語』)
『論語』は1600年ほど前に、海外から我が国にもたらされた最初の書物であった。そしてその「忠恕」や「仁」を核とする思想は、民を「大御宝(おおみたから)」と呼び、すべての生きとし生けるものが「一つ屋根の下の大家族」のように仲良く暮らしていくことを理想とした我が国の国柄には、まことに相性の良いものであった。

そして我が先人たちは『論語』に学びつつ、我が国の国柄を深めていった。聖徳太子は、『論語』の「和」を深めて、「十七条憲法」の第一条に「和を以て貴しと為す」と説いた。鎌倉時代の「曹洞宗」の開祖・道元禅師は、世を治めるのは『論語』がよいと推奨していたという。

江戸時代には『論語』研究が盛んになり、中江藤樹、山鹿素行、伊藤仁斎、荻生徂徠などが、生き方の学問として究められていった。武士道もこの根っこから、花開いていく。こうした学問の系譜から、吉田松陰、西郷隆盛など幕末の志士が生まれ、明治維新への道を開いていく。

また農民の間でも、二宮尊徳は幼少の頃から『論語』を学び、長じて各地で農村改革を実現して、日本人の勤勉な国民性を形成した。明治時代に入って、企業500、公共・社会事業600の設立に貢献し、「日本資本主義の父」とまで呼ばれた渋沢栄一は、「論語と算盤」という言葉をよく使い、道徳と経済を一致させる必要を説いた。

 『論語』は、まさに我が国を発展させてきた先人たちのバックボーン(背骨)であった。だから、戦後教育で『論語』が忘れ去られた途端に、きちんとした価値観、原理原則という背骨を持たないルーピーな人間が増え、その一人が総理大臣にまでになってしまったのである。

(孝心は「まごころ」の始まり)
孔子の教えを、実生活に則して農民や漁師にも分かりやすく説いたのが中江藤樹である。

中江藤樹は江戸時代の初めに、琵琶湖西岸の小川村(現在の滋賀県高島郡安曇川町)で生まれた。9歳にして祖父に郷里を連れ出され、以来、武士として生きてきたのだが、やがて祖父母を亡くし、郷里の父も死んで、郷里の小川村には老いた母親が一人住んでいた。今のうちになんとか母親に孝養を尽くさねばと思うと、いてもたってもいられない気持ちとなって、35歳にして郷里に戻ってきた。

そのように母親を思う孝心は、人間としての「まごころ」の始まりではないか、と藤樹は考えた。その気持ちで兄弟が助け合い、夫婦が相和し、友だちが信じ合う。

そのまごころがさらに発展すれば、主従が心を合わせて一国を治め、またそうした国々が相和して、天下の平和を保つことができる。「修身斉家治国平天下(身を修め、家を整え、国を治め、天下を平らかにする)」という儒教の古典「大学」の一節は、まさにこの事を示しているのではないか。

とすれば、「国を治め、天下を平らかにする」という政治の根本も、まずは人間一人一人の心の中にすでにある「まごころ」を磨く所から始めなければならない。

 (縦軸のお陰様、横軸のお陰様)
親を思う「まごころ」の広がりを、藤樹は馬方や漁師にこんな風に説いている。
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わたしたちは、親によってこの世に生まれました。その恩は計り知れません。ですからまず、自分を生んでくれた父母を敬い愛することは大切です。しかし考えてみれば、その父母も祖父母から生まれました。そうなると祖父母に対しても愛敬の念を失ってはなりません。その考えを推し進めていくと、わたしたちはご先祖様に対しても、考を尽くす義務があります。
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親への孝心は、親の親というように遡っていけば、先祖への感謝につながる。そして先祖からの恵みを思えば、子孫のために何事かをなそうという報恩の志につながっていく。これを「縦軸のお陰様」と呼ぶことができる。

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が、それだけではありません。わたしたちは一人で生きているわけではありません。かならず、他人との関わりがあります。世の中との関わりがあります。恵みや慈しみをくださる方々に対しても、われわれは愛敬の念を持たなければなりません。つまり、他人や世の中に対しても孝を尽くさなければならないのです。
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また、私たちが現在、生きていけるのも様々な商品、サービスを提供し、あるいは安全を守ってくれている人々のお陰である。親への感謝の気持ちは、そのまま自らの共同体を支えている人々への感謝と報恩の念に発展していく。これを「横軸のお陰様」と呼ぼう。

武士道は「忠」と「孝」の二つを大切にする。「忠」とは、ここで言う「横軸のお陰様」、「孝」とは「縦軸のお陰様」と考えれば、それは現代の共同体にも通ずる普遍的な原理であることが分かる。

国家という共同体は、国民それぞれの縦軸、横軸のお陰様が支えている。この点の認識が政治の根本になければならない。それが失われている所に、戦後教育の欠陥がある。

鳩山氏は「日本列島は日本人だけの所有物ではない」、「国というものがなんだかよくわからない」などという迷言を吐いたが、それはこの「縦軸のお陰様」も「横軸のお陰様」も教えられていないからである。まさに戦後教育の欠陥を体現した人物であり、こうした政治家が国政の混乱を招いているのである。

(自分の命より大切なものがあると知ったときに)
空手の達人で、子供たちに論語を教えている瀬戸謙介氏は、その著書でこう述べている。
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でも、世の中には命よりも大切なものが絶対にある、と先生は思います。そして、自分の命より大切なものがあると知ったときに、その人の人生は輝きを増して、人間として素晴らしい人生を歩むことができるのです。

だから先生は、君たちには命よりも大切なものがあることを絶対に知ってほしいと思います。
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自分の命が一番大切だとしたら、結局、自分はいつかは死んでしまうのだから、どうせ何をしても後には何も残らない、というニヒリズムに陥ってしまう。そこそこ豊かな生活ができれば、それで満足してしまう。現在の多くの青年や子供の元気がないというのは、ここから来ているのだろう。

それよりも、自分の命が現在あるのは、先人や世の人々のお陰と考え、少しでも恩返しをして行こう、という心のある人は、自分の人生をそのために使おうと頑張り、それが結局、その人の人生を耀かせ、幸福にするのである。

この道こそ、『論語』や『武士道』を通じて、日本人が大切にしてきた生き方であり、そういう人物を育てることが我が国の人作りの正道であった。国民を幸せにできる国家を再建するには、もう一度、この正道に立ち戻るしかない、と思う。
(文責:「国際派日本人養成講座」編集長・伊勢雅臣)

---owari---
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