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「泣きたくなるほど美しい」京都 桂離宮の美しさの秘密

2016年08月18日 | 日本

京都 桂川の畔に「日本の美の最高峰」と称される桂離宮が佇みます。400年前、八条宮智仁親王が源氏物語の世界に憧れて造営した別荘です。

池泉回遊式庭園と伝統的建築物(書院や茶室など)が調和し、西洋現代建築の祖 ブルーノ・タウトやヴァルター・グロピウスも、「簡素さの中に美と深い精神性を表した建築及び庭園」と高く評価し、ブルーノ・タウトが「泣きたくなるほど美しい」と大絶賛した桂離宮は以来、その名声は世界に轟きました。

 

普通、桂離宮は賛美される際に「簡素美」であるとか、「庭園と建築の見事な調和」であるといったような言葉を用いられることが多い。しかし、これらの言葉は桂離宮の魅力を表現するには十分ではないと思われます。

 

桂離宮は現代において、ただ日本の伝統を静かに主張する存在ではなく、そこには何か、時代を経ても評価され続ける、普遍的で本質的なものが潜んでいるのです。

 

「桂離宮で達成された美は決して装飾的なものではなく、実に精神的意味における機能美である」と、宮内庁京都事務所長の石川氏が述べているように、桂離宮が評価されているのはその表面的なものではなく、その奥に潜む、桂離宮の本質的な部分ではないのでしょうか。

 

桂離宮の建つ京都、桂川西岸一体は古くから月の名所として知られている。「桂」という地名の由来も、古来中国では月に桂の木が生えているという伝説があったことにあるという。それだけではなく、「源氏物語」や「土佐日記」など、多くの文学作品にも桂という土地は観月の名所として取り上げられているのです。

 

この地を選び、桂離宮を創設した八条宮智仁親王自身も桂の地で月に関する和歌を多く詠んでおられ、「桂古歌」では実に月の和歌を十六首も選出している。この事から、智仁親王自身も月には強い関心を示されていたことが分かります。

 

日本では古来より観月を慣習としてきた。十五夜の中秋の名月の夜に、団子を供える行事はその典型的な例の一つである。もともと日本は湿度が高く、夕焼けや月がより美しく感じられる風土を持っているが、なぜ日本ではこのように観月が文化に根付いたのだろうか。

 

「竹取物語」では竹から生まれた絶世の美女である姫が現世からあの世へ帰る場所として月が使われている。また、月が自然の中で最も重要な芸術の題材となってきたのも注目すべき点である。「花鳥風月」といった言葉にも表れているように、自然が豊かな日本を代表する要素として月は重んじられてきたのです。

 

月は日本人にとって、単に観る対象としてではなく、そこに自分の心を映し気持ちを詠んだ対象としての意味も成してきたのです。このように、月は元来日本人の生活に密着した風習であるとともに、自然と人生を結びつける行為の一つであったといってよいのではないでしょうか。

 

興味深いのは、こうした月に関する建築構成やデザインが桂離宮の要所に見られるということです。古書院の月見台や、ふすまの月の引き手(月文字)はその中でも有名なものです。

 

その他にも、桂離宮には「浮き月の手水鉢」、「月見橋」、「月波楼」、「歩月」などの月に関する名称や、装飾が多く見られる。

 

この様に、桂離宮はもともと観月に適しているという桂の土地を活かした、装飾面、建築構成面においても月を強く意識された建築である。月の名所である桂という土地は、観月という当時の生活に溶け込んだ慣習を満喫する上でも絶好の立地であるということが言えるのです。

 

創建者である八条宮智仁親王がこの地を選ぶときに惹かれた要素があると言われている。それは、この土地がかつて藤原道長の別荘があった場所であり「源氏物語」の別荘、桂殿の舞台となった場所だという事です。

 

つまり、「源氏物語」の桂殿のモデルとなったのは桂院であり、「光源氏のモデルとなったのは、藤原道長だったとしてもおかしくない」のです。当時の宮廷人にとってバイブルとも言えるこの文学作品内の別荘のモデルとなった桂という土地は、おそらく憧れの場所であったに違いないのです。

 

桂離宮の美しさの秘密は、「隠されている美」にあると私は思っています。

桂離宮は中央に複雑に入り組んだ池があり、大小5つの島が造られていて、その周りの道を歩くと、池のどの辺りにいるのかわからなくさせるような変化を持たせているのです。

大きな池の全景が見渡せる箇所が少なく、庭園の眺めを意図的に妨げる趣向が採られているのです。

 

有名なのは、苑内に入りすぐ目の前の池を見ようとするものの、正面には綺麗に剪定された背の低い松が目隠しのように植えてあり、見えないような配慮がなされています。いわゆる「目隠しの松」です。松はわざと池や庭園全体を隠していて、その後に展開する景色への期待を高める効果があるのです。

 

どの場所からも植木や塀に遮蔽され、入り組んだ池や建物の一部が望めるだけで、あらゆる視点から美的効果を計算しています。ですから少し歩くだけで次々とトリックのように別世界が展開されるので、景観はサプライズの連続です。

 

桂離宮には4つの茶室がありそれぞれ春夏秋冬の性格を持っています。

『松琴亭(しょうきんてい)』『賞花亭(しょうかてい)』『笑意軒(しょういけん)』『月波楼(げっぱろう)』などの木に埋もれた建物に移動するたびに、まったく違った景色が現れる。どこも、計算された庭木の配置によって、他のエリアが見えないようになっていて、そこだけの味わいに浸ることができるのです。

 

また、点在する燈籠や手水鉢等は全て名が付けられており、個性を誇示しています。それらの景観の完璧な美しさ、ディテールの遊び心や冗長性、そして密かに隠された漢詩や和歌の世界、源氏物語、茶道、四季の事柄などのイメージが広がる余白が桂離宮の魅力の本質ではないかと思います。

 

こうして断片的に切り取られた日本的な美の凝縮やディテールを紡いでいったその先に、桂離宮の全体像がおぼろげに浮かんでくるのです。審美眼に長けた人ならすぐに共鳴してしまうのではないでしょうか。

 

冬の茶室、『松琴亭』は桂離宮の中では一番格式の高い茶室ですが、松琴亭を出て飛び石を歩くとわざと歩きにくいように作ってある箇所があります。歩きにくくしているのは「おもてなし」の演出です。歩きにくいところでは下を向いて歩かざるを得ません。そして歩きやすくなったところで顔を上げると目の前には絶景が現れるという工夫がされているのです。この辺りは「さすが桂離宮」といったとことですね。

 

私が参観したときに感じた点は三つありました。

・御幸門の質素なこと、気品があること

・霰(あられ)こぼしの御幸道の洗練された、均整の取れた美しさ

(霰こぼしは敷石の一種で、一様な大きさの玉石を敷き詰めたもの)

・観月のための茶室『月波楼』のロケーションの素晴らしさ

(小高い場所に建てられており、東にある池に映る月の影を楽しむことができます。北側の窓からは紅葉を楽しむことができ、葉が落ちるとソテツが見えるように植栽の配置にもこだわっている。まさに秋から冬へと移り変わる景色を楽しむことが出来るおもてなしを考えた造園の技が光っているのです)。

 

桂離宮が単に伝統を誇示する建築ではなく、見る人に宿る感性によって実際あるべきもの以上の存在になっている。「日本的なもの」を意識させるだけではなく、現代においても創造のエネルギーを常に発信し続けるこの桂離宮は、これからも訪れる人びとに簡明(感銘)を与え、日本における建築の歴史に名を残し続けるのではないのでしょうか。

 

---owari---

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2 コメント

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雲伯ストライベック油屋 (元鉄鋼商社関係)
2024-12-18 12:15:50
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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こんにちは (このゆびとまれ!です)
2024-12-19 14:49:51
雲伯ストライベック油屋(元鉄鋼商社関係)さんへ

こんにちは
ご訪問頂きありがとうございました。
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