マスコミの情報を鵜呑みにしない
トレンドを読むために、まずは幅広く情報を集める必要がある。多くの人はマスコミの情報から始めるわけだが、そこには発信する側の価値観が強く反映されていることを見抜く必要がある。
マスコミの情報をそのまま受け止めると、トレンドを見誤る。
たとえば日本経済が好調だった1989年、日銀の三重野康総裁は公定歩合の引き上げによる金融引き締めで、「バブル潰し」を行った。日銀は、大蔵省との面子の張り合いの中で、公定歩合を上げれば「勝ち」、下げれば「負け」という論理で動いており、"連勝"を続ける三重野氏を、当時のマスコミ各社は「平成の鬼平」と持ち上げた。
だがその結果、最高4万円に迫っていた日経平均株価はあっという間に下落し、7千円台にまで落ち込んだ。結局、バブル潰しが「失われた20年」という経済の長期低迷の原因となったわけだが、現在に至っても、これに加担したマスコミ各社が、誤りを認めたことはない。
国難を招いた民主党政権を誕生させたマスコミ
また、90年代前半の政治改革の「小選挙区制導入」の際、マスコミ各社はこれを支持した。
「激動する内外情勢の中で、日本が時代の変化に即応して活力ある政治を進めるためには、政局が安定していることと、政権交代可能な二大政党の存在によって政治に緊張感が保たれることが必要だ」(1993年8月14日付読売新聞社説)
ところが、同制度では1選挙区1人しか当選しないため、死票が多く民意が反映されにくくなった上、二大政党という不毛な選択を国民に強いた結果、逆に政治が不安定になった。
当時、自民党総裁として同制度導入に尽力した河野洋平氏も昨年4月、中選挙区制復活を目指す超党派議員の会合で、小選挙区制は失敗だったとして、「率直に不明をわびる」と陳謝。マスコミも手のひらを返すように、「司法の要請と、政治の安定などを考慮すると、小選挙区比例代表並立制の手直しか、中選挙区制に戻すしか選択肢はなかろう」(2013年8月18日付同紙社説)とした。
近年では09年夏の衆院選で、マスコミ各社は積極的に「政権交代」と報じて世論を誘導し、民主党政権を誕生させた。
だがその後、外交や安全保障、経済などのあらゆる分野で「国難」が訪れた。現在マスコミの多くは、当初のスタンスとは180度変わって民主党政権時代を否定する側に回っている。
マスコミは何年も経って間違いに気づくような失敗を繰り返すことがあると知っておきたい。
各社の思想・信条に基づく報道
マスコミ各社が、それぞれかなり強固な思想・信条に基づいて情報を選択し、報道していることにも注意したい。
たとえば福島第一原発事故が起きた当初、各社は総がかりで連日、放射能の恐ろしさやおびえる人々の様子を伝えた。時間が経つにつれて次第に冷静さを取り戻すメディアも現れ、新聞では、読売や産経、日経が国のエネルギー事情や放射線の影響の低さを考慮して「原発再稼働」を主張。だが、朝日や毎日、東京(中日)は、健康に影響を与えない微量な放射線の検出などを声高に騒ぎ、無責任な「原発ゼロ」の主張を続けている。
もちろん、テレビ各局の番組にも思想・信条が反映されている。だが、報道番組やドキュメンタリーを見ても分かるように、「国や大企業が個人を苦しめている」という結論が多く、基本的にテレビ各局は左翼と言える。
「沖縄独立」をあおる沖縄のマスコミ
また、マスコミの特徴は地域によっても大きく異なる。象徴的なのが、全国紙はほとんど読まれず、地元「琉球新報」「沖縄タイムス」の2大紙が約97%のシェアを占める沖縄だ。両紙は極端な左翼思想支持で、軍事的なものに過剰反応し、最近では覇権国家の中国と歩調を合わせるかのように「沖縄独立論」を展開する。
沖縄を日本から独立させ、すべての軍事基地の撤去を目指す「琉球民族独立総合研究学会」が5月に発足した翌日の琉球新報の社説は衝撃的だ。
「政府による過去の基地政策の理不尽、振興策の数々の失敗に照らせば、沖縄の将来像を決めるのは沖縄の人々であるべきだ。(中略)残る議論は、その拡大した形態についてであろう。特別県制か、道州制の単独州がよいか、その際に持つ権限は何か。あるいは独立か、連合国制か、国連の信託統治領か。さまざまな選択肢がありえよう」(5月17日付)
一方、両紙は、中国が太平洋への進出の足掛かりとして沖縄や台湾の侵略を狙っていることや、沖縄の米軍が中国への抑止力となっている事実については、ほとんど報じない。偏向報道の最たるものだ。
トレンドを読む上で、日々、マスコミ情報に触れることは欠かせないが、その情報が往々にして逆方向を指し示すことが多いため、鵜呑みにはできない。
情報を入れ、仮説を更新し確度の高い情報を発信する
経営コンサルタント
小宮一慶
(こみや・かずよし)経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表。1957年、大阪府生まれ。81年に京都大学法学部卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学、MBA取得。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。著書は、『日経新聞の数字がわかる本』 (日経BP社)『「1秒! 」で財務諸表を読む方法』(東洋経済新報社)など多数。
世の中がどう変わっていくか、を分析するのは、とても難しいことです。逆に、これを読み解くことができれば、ビジネスの戦略立案の半分は終わったと言っていいでしょう。
そのためには、まず新聞をきちんと読むことが大事です。私が経営者向けのセミナーでおすすめしているのは、日経新聞の一面のトップ記事を毎日読むこと。これは関心を広げる訓練です。関心がないものは見えませんから。私個人は、4~5行のリード文のある大きな記事は、どのジャンルでもすべて読んでいます。
また、マスコミごとに思想・信条が異なるので、各紙でニュースの扱い方が違うし、事実を自分たちの都合の良い側面から見ていることもあります。何紙も読み比べて、真相を見極めねばなりません。
ネットは誰もが何でも書けるので、質や信憑性の高い情報を選ぶ必要があります。ただ、一次情報を確認する時にネットは強い味方です。政府の情報や企業の財務諸表など、生の情報にもすぐあたれるし、記者会見も動画で配信されています。
経営者は自分の主義・主張と異なるものにも耳を傾け、世の中の大きな流れをつかまなければ成功できません。独断と偏見に満ちた人は、都合の良い情報しか入らなくなって失敗します。経営の神様と言われる松下幸之助さんは、人間が成功するために素直さや謙虚さが大事だと言っています。
経営者であっても、政府の予算や外国の動向など、大きなトレンドに関する情報が自分の関心の外にある人が多い。逆にこうしたものを関心の中に持ってくることができれば、ビジネスで成功する確率は高くなります。
集めた情報を結びつけて仮説を立てる
私は頭の中に「棚」があるとイメージしています。新聞を切り抜いたり、情報をメモしたりして折々に読み返すと、その棚に情報が整理されていくのです。
そうして、何かをひらめくときも、実は棚にある情報が元になっています。多くの情報を得た後にやるべきことは、異なる情報を組み合わせ、論理的に仮説を立てることです。
たとえば経営者やスポーツ選手の給料は、アメリカでは日本の100倍以上になることもあります。一方、一人あたりの賃金の平均は日米であまり変わりません。
この2つの情報を、どう説明できるでしょうか。私は、アメリカでは極端にマニュアル化が進んでいることが関係していると思います。多民族国家のアメリカで多くの人を使うには、仕事を細分化・簡略化する必要があるからです。誰でもできる仕事の給料は安く、逆に価値の高い仕事をする人は高い給料が取れるようになり、二極化が進んでいるのです。
私は今後、日本でも二極化が進むと思います。手打ちだったレジでもバーコードを読み取るだけに簡略化され、複雑だった経理の仕事も、数値を打ち込めば済むソフトができています。機械化が進むことで、誰でもできる仕事が増えていくのです。
こうして、自分で立てた仮説も、新しい情報を入れながら修正してどんどん更新していけば、そのうちに確度の高い情報を発信できるようになります。
最近は、街や電車で若者がスマホでLINEなどのSNSをやっているのをよく見かけますが、ほどほどにした方がいい。貴重な時間を仲間同士の大したことのない話で費やしていてはもったいない。立派な人の書いた本を読むとか、新聞や雑誌で見聞を広めるなど、自分を高めることをした方がいい。そうしないと、自らを低い給料に固定化していくようなものです。(談)