ボランタリー画廊   副題「げってん」・「ギャラリーNON] 

「げってん」はある画廊オーナとその画廊を往来した作家達のノンフィクション。「ギャラリーNON]は絵画を通して想いを発信。

げってん(その21)-片山正信・版画-

2007年07月14日 | 随筆
 片山正信さんの版画制作はすざましいものがあった。画文集だけでも「版画・若松百景1974年」、「若松版画散歩1980年」、「版画・若松再見1983年」、「大正走馬灯1983年」、「版画集・北九州めぐり1987年」、「版画・戸畑ちょっとむかし1989年」、「版画・満州あのころ1989年」の7冊を出版している。ほかにも若松観光、句碑建立チャリティー、市政20周年記念、大宰府市制施行記念、若松郵便局開局110周年記念、遠賀郡観光絵ハガキ、改築若松区役所ロビー壁画などなど地元や近郷に密着した仕事が多い。その制作数はピカソに負けていないと思える。
 なぜこれほどまでに地元、近郷にこだわっているのか聞いてみたくて仕方ない思いだったところ、「版画・北九州めぐり」を制作依頼される際に、北九州市から「なぜ若松風景だけにしぼるのか」と問われていることに、こう応えています。「それは現在そこに暮らしていて自分としては若松を一番よく知っているからに他意はありません」と。私は分かるような気がするのです。私の作品も身近な対象が殆どで、フランスもイタリアもスペインの欠片もないからです。
 
 午後3時、若松ケアハウスの片山さんを訪ねました。
 「今、お風呂に入っておられますので、しばらくお待ちいただけますか」と介護士。
 「はい、待ちます」と応えてロビーの椅子に腰掛けてました。
 若い介護士に腕を支えられて、さっぱりとした顔で片山さんがロビーに現れた。
 「彼女を紹介する」といって介護士に目を向ける。
 「眠っていたのを起されて風呂に連れて行かれた」と、不機嫌な言葉がついて出るが顔は少しほころんでいる。
 部屋まで案内され、お茶を出して下さる。
 話は版画作品に。地元風情を描いた○○シリーズ以外に一点ものがあれば見せて頂きたいと頼んだ。部屋の角に20号くらいの額縁用の箱に入っているので見ていいよといわれ、ちょっと手こずったが引き出して言われるままに開けて見た。期待する作品が沢山あった。私はこれが片山さんだと思い、遠からず展覧会にしたいと一人心に決めた。
 
 「しっかり昼寝をしてしまうと夜寝られないでしょう」と言うと、
 「かまわんさ、寝られないときは起きているから」と簡単にいなされた。
 玄関まできて、見送って下さった。