夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ワクチン不足の原因 ファイザー「5千万回分行方不明」 モデルナ「調達見通し甘すぎ」

2021-07-07 16:12:36 | 政治
 
 6月4日に、厚労省は、ファイザー製の供給量を大幅に減らすと、自治体宛てに通知を出した。 それは、7月には「自治体の希望した量の半分程度」(大村愛知県知事6月22日)しか供給されないというもので、それに対し、19日に全国知事会は「十分な量の確保と具体的な情報提供を国に要望」した。
 しかし、この時点では、「国もファイザー社製ワクチンが手元にあまりないのではないか (大村知事22日)」と懸念が示される程度で、ワクチン不足は、五輪の開催・中止、観客の有無の問題の陰に隠れ、まだ、大きな問題とは認識されていなかった。
 ところが、6月23日、河野太郎担当大臣が突然、国や自治体の大規模会場と職域接種で使用していたモデルナ製ワクチンが不足しそうだと言い出した。国は、不足しているのは、ファイザー製だけでなく、モデルナ製ワクチンも不足していることを明らかにしたのだ。当然この頃からは、メディアもワクチン不足を大きな問題として扱うようになった。
 それまでは、5月7日に菅首相は「1日100万回を目指す」と言い、6月9日には「10月から11月にかけ、希望する国民すべてに、(接種を)終えることを実現したい」と表明し、高齢者接種が半分も終わっていない段階で、なりふり構わず大量接種の大号令をかけていたのである。供給不足が表面化したのは、各自治体が接種スピード加速させ、大企業や大学、一部の業界なども職域接種に突き進もうとした矢先のことである。国が自治体に供給量を減らす通知をしたことで、自治体は接種枠の拡大から、一転して縮小に向かわざるを得なくなった。当然、それまでの市民からの予約を取り消す自治体も続出し、接種の現場は混乱した状況に陥っている。また、職域接種の新規申請は受け付けないとされたことで、当初申請に間に合わず、準備段階だった大学等の職場では、接種計画を中断させられた。なぜ、このようなことになってしまったのだろうか?

 不足の原因①「接種機会を増やし過ぎて、ワクチンがどこに行ったかわからない」
 ワクチンの海外からの調達は、ファイザー製ワクチンでは、6月の段階で既に1億回分以上あったことは政府も認めている。接種実績の方は7月6日時点で、ファイザー製とモデルナ製を合計しても5千2百万回であり、この数字だけを見れば、不足は起こり得ない。それが起こるのは、接種されていない約5千万回分のワクチンが、自治体に供給されたまま、どこに行ったか分からないからである。
 そこで政府は犯人探しをするかのように、6月22日、河野太郎は(自治体の)「申請の中には過大な接種量を申請しているところが散見され」ると言った。また同日、田村憲久厚労相は「自治体や医療機関に在庫がたまっている可能性があり、調査する」と言い放ち、供給不足の原因は、接種を進めている方にあると言いたげだった。
 要するに、ファイザー製は自治体の希望どおりに供給したら、足りなくなった。モデルナ製は、職域接種の申請を積み上げたら、足りなくなった、ということである。
だから、7月以降は、ファイザー製は希望の半分以下の供給となり、モデルナ製の職域接種は今後の申請は受け付けない、ということである。
 ファイザー製の方は実態として、ワクチンの供給済みの数字と接種実績の大きな差から、確かに、「自治体や医療機関に在庫がたまっている」のは間違いない。つまり、自治体や医療機関に在庫が大きく偏在しているのである。余裕のあるところと逼迫しているところの差が著しいのである。しかし、この原因を作り出したの政府である。
 多くの報道によれば、医療従事者に続き、高齢者に接種を開始した3月から4月の段階で、自治体には充分なワクチンは供給されなかった。つまり、自治体の希望より大幅に減らされた供給しかされなかったのである。それはその時点では、海外からの調達の遅れと実際の配送体制が充分に構築されていなかったためである。
 しかし、5月18日に河野太郎は「ワクチン供給に問題はない。自治体は接種をどんどん進めて欲しい」と言った。自治体側は、政府の指示どおり高齢者以外にも接種を開始し、また、政府は具体的な供給計画も見通しも明らかにせず、自治体の希望数量算出の目安も示さなかったので、希望どおりに供給されるか不安に陥り、自治体によって、その判断はまちまちで、上乗せして希望を出すところも数多くあった。しかしふたを開けて見ると、自治体の予想とは違い、5月、6月は希望にそった数量が供給されたのである。このことは、複数の新聞報道で明らかで、かなりの数の自治体の担当者が「こんなに来るとは思わなかった」と答えている。勿論、この時点では、政府は海外からの調達分が消費期限を心配しなければならないほど、充分確保していたからである。だから結果的に、適正な在庫を持つ自治体と在庫過剰な自治体が出てきたのである。
 これらのことはすべて、国のワクチン接種施策計画がずさんであり、さらにそのずさんな計画すら無視して場当たり的に実行した結果である。政府は、コロナ対策失敗の汚名返上のため、医療従事者・高齢者接種の完了を一定程度待つこともせず、単にワクチン接種数を上げることを最優先にし、当初の優先順位を完全に無視して、打てるところから打て、という方針に変更した。だから、多くの自治体で、接種現場を最大限拡大し、そのためにできるだけ多くのワクチン希望数量を国に返答したところが出てきたのである。
 ずさんな接種施策は、接種方法を自治体側に丸投げしたことにもある。それにより、自治体によって、集中接種会場を主体に医療機関を補助的役割に置いたところ、個別医療機関を主体にしたところとバラバラになった。例えば、東京都豊島区など、個別医療を主体にした自治体は、予約も各医療機関で行っている。このメリットは、接種場所を市民の住居からできるだけ近くに数多く設置でき、かかりつけ医が接種できることである。この場合、自治体は各医療機関からのワクチン希望数量を供給する。したがって、この方式が順調にいくのは、常に希望数量が潤沢に確保できるという前提にのみ可能ということになる。ひとたび、ワクチン数量が逼迫すれば、自治体側は数多くの各医療機関の接種状況を把握し切れないので、どこを優先供給していいか分からず、混乱するばかりになる。豊島区の医療機関が予約を断るシーンが、テレビで何度も放映されたのは、この事情による。
 国はワクチン接種に、VRSワクチン接種記録システムとV-SYSワクチン接種円滑化システム という管理システムを作っている。VRSは主に個人の接種記録を管理し、V-SYSは主にワクチン在庫・配送を管理するものである。自治体はV-SYSを通じて、ワクチンの希望数量や入荷情報を管理する。これらに各自治体や医療機関は速やかに入力し、国はその情報を一元管理できるというものである。
 これらが順調に運営されるのは、各自治体や医療機関が統一して速やか入力するという条件の下である。しかし、入力状況はそれぞれバラバラで、早くところ、遅いところと大きな差があるのが実態である。それは、このシステムの入力作業が煩雑で、人員不足の自治体は、その時間がないという状況が生じている理由による。また、システムへのアクセス権限者も明確化されていないので、実際に入力に携わる者も、各自治体でバラバラになった。都道府県、市町村、保健所、医療機関のそれぞれの担当者と、誰がやっているのか全体ではよくわからないのである。システムを設計した厚労省は、入力の人的な作業をまったく考慮しなかったからである。
 いくらシステムがあっても、使いこなせなければ、管理などできるはずはない。システムが期待どおりに動いていれば、国は医療機関や保管施設を含めた各自治体の在庫状況を一目瞭然に把握できるので、ファイザー製に限れば、今の時点でワクチン不足は起こらない。全体の接種実績の約2倍の供給を、総量として各自治体に配布済みだからである。7月以降9月までに、7千万回分が供給される見通しで、合計で1億7千万回分以上、8千5百万人分に達する。この数字は、人口の70%に相当し、接種が順調に進めば、集団免疫に近づくと考えられるものである。それでも、「不足」起こるのは、ワクチンが「どこに行ったか分からない。行方不明」のためなのである。
 7月8日、内閣府が都道府県別の供給量に対する接種率を公表した。宮崎県が68%で最も高く、大阪府が46%と最も低かった。この数字でも、全体で半分程度の接種しかされていないので、当面の間、不足はないように見える。しかし、国も認めているが、実態は未入力がどれくらいあるのか、見当がつかないので、正確なところはまったく分からないのだ。これは、各自治体も同様に、その先の接種機関の実態が分からないので、在庫の偏在が正確に把握できないのである。
 さらには、日本が公表しているVRSによる接種実績も、本当に正しいかどうか分からない。未入力や誤入力がどれくらいあるか分からない。それが実情である。

 原因②「調達見通しの甘さ」
 モデルナ製の方は、実際に調達できた数量が当初の契約より少なかったという理由による。当初は、6月末までに4000万回分調達できるはずが、1370万回分だったということである。これについては、河野太郎担当大臣は5月連休前から知っていたが、批判を避けようと、恐らく意図的に公表を遅らせたので、問題がさらに大きくなっただけである。
 そもそも、ワクチンが契約どおりには、調達できないのは、国際的「常識」である。EUがアストラゼネカ社に供給遅れを理由に提訴したのは、3月と5月のことである。そのことで分かるように、世界的にワクチン争奪戦が起きており、契約どおりにならないのは、冷静な人間なら誰でも予見可能なことだ。それだけ、日本政府は「世界の非常識」のことをやっているのである。

 もはや、こういう状況になるのは、政府の「バカ丸出し」のせいとしか言いようがない。
 
 
 
 
 
 
 
 



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