東京新聞「政治とカネ考」より
自民党「裏金」問題が、マスメディアを騒がせている。「裏金」とは、自民党内の派閥がカネ集めのために政治資金パーティー を開催し、政治資金収支報告書 に、一部の収入を不記載または過少申告したカネのことである。自分たちが作成した法令である政治資金規正法に、違反、または抜け穴を利用して、カネを集めたことになるので、それに対する怒りは、至極当然である。その発端は、総務省は毎年、各政党・政治団体の政治資金収支報告書を公開するが、その派閥のパーティ収入と支出の間に大きなギャップがあることに疑念を抱いた日本共産党の機関紙あかはた編集部と神戸学院大学の上脇博之教授が、「派閥の政治資金収支報告書がパーティー券の大口購入者名を記載していないものが、……約2500万円」(あかはた2024.2.9)もあったことを突き止め、2022年11月6日の日曜版でスクープし、同時に上脇博之教授が刑事告発した(不起訴となったが)ことから始まっている。それが2年もたって、2023年11月にマスメディアも、ようやく報道し始めたことから、現在の大騒ぎとなったのである。
1.そもそも自民党のカネはどのぐらいあるのか?
総務省が毎年報告する政党の政治資金の収入は、2022年の自民党は248億円で、その内約7割が政党交付金で、3割が企業・団体・個人の献金である。
この流れについては、政治資金規正法 により、政治資金は公表が義務付けられている。それを分かりやすく表にしたものが、会社四季報オンラインに掲載されている。
「『自民党への献金が多い』業界・宗教団体など最新14団体」
これには「日本医師連盟」「自由社会を守る国民会議」「日本自動車工業会」「日本鉄鋼連盟」などと続く。言葉を換えれば、医師・薬剤師等の利益確保のための政治団体、業界団体、イデオロギー上の自民党支持者が並び、さらに宗教関連団体の名も掲載されている。
さらに、「業界団体」の中の企業名で言えば、次のようなものである。
「最新版『自民党への献金額が大きい上場企業』トップ26社」が、それである。
これを見ると、一目瞭然なのだが、「住友化学」「トヨタ自動車」「日立製作所」「キャノン」「日産自動車」「野村HLD」といったほとんどが日本を代表する大企業である。
これらに付け足せば、「政治資金収支報告書」には、個人名も記載されており、この個人らは純粋に熱心な自民党支持者ということだろう。
そして、今問題されているのが、政治資金パーティーだが、その支出者は、以下のような団体である。
「『自民党・派閥パーティー』へ100万円以上支払った団体一覧」である。
これは、「2023年11月24日に総務省が開示した政治資金収支報告書から、自由民主党(自民党)の主要6派閥の政治資金パーティーへ100万円以上の支払いを行った団体を集計した」ものであり、 そこには、「ニトリHLD」から始まるが、「渡辺建設 」など、さほど有名ではない地方企業や、「日本医師連盟」「 日本薬剤師連盟 」が名を連ねている。自民党6派閥の収入の内、8割が派閥パーティー収入である(読売新聞2023.11/23)。
これを見れば一目瞭然なのだが、自民党への献金は、圧倒的に企業からのものが多いことが分かる。
しかし、これだけでは自民党は、カネが足りないのである。そこで、「政治資金規正法に、違反、または抜け穴を利用して」集めたカネが「裏金」である。
2.自民党には、なぜ「裏金」が必要なのか?
「裏金」の集め方は、多くのマスメディアで報じられているので、ここでは割愛する。問題は、自民党だけが、150億円もの政党交付金や適法の献金だけのカネでは足りず、「裏金」が必要なのか、である。
それはひと言で言えば、自民党は、イデオロギーだけでなく、役得を求めて集まっている集団だからである。この「役得」にカネがいるのである。
自民党の党員数は、2022年で約110万人だと公表している。これは、公明党45万人、日本共産党26万人、立憲民主党党員・党友10万人と比べると、著しく多い。さらには、数十年前の最盛期1991年には540万人もいたというのである。2012年には73万人に激減し、それが党員獲得の「努力」で、現在のおよそ110万人程度に回復したということである。
一般に政党の党員数が激減するのは、解党や再編成があった時ぐらいで、通常は起こりえない。一時期、与党を滑り落ちたとはいえ、それがいつの間にか、8割減となるのは異常である。これはつまり、もともとの数字がおかしいと考えるのが、最も妥当性のある説明だろう。
上記の日経新聞によれば、自民党の党員は3割が職域党員であり、それは「日本医師連盟」等の医療、飲食業等の商工、建設といった業界団体の関係者ということである。それ以外が一般党員ということになる。
自民党は中央で与党であり、地方でもほとんどの場合、与党であり、権力機構を構成している。それも長期にわたっているので、一般党員といっても、その多くが、権力に寄り添えば、「得をする」という動機から入党すると考えらえるが、それは極めて自然なことである。「寄らば大樹の陰」である。年間党費4000円を払えば、「大樹の陰」に入れるのである。
要するに、職域党員も一般党員も、自民党の政治的信条に共鳴し、入党するというよりも、損得勘定で入党する方が多いのである。
損得勘定ならば、軽い気持ちで入党し、大して得ではないと分かれば、離党する。それが、数字の上で、党員数が激減する第一の理由だろう。
それに自民党国会議員には、党員獲得のノルマが課され、獲得数が多ければ、比例代表上位に位置づけられ、ノルマ未達成ならば、罰金を徴収される。当然、党員獲得に必死になり、党費4000円を立て替えても、名前を記入すれば、獲得したことになる。いわゆる「幽霊党員」である。「幽霊」は「幽霊」であり、いつ消えてもおかしくない。そもそもの党員数に水増しがあり、それが見た目の党員数激減の第二の理由だと考えれば、誰でも納得するはずだ。
3.自民党にいることの「役得」
自民党後援会に入れば、「役得」がある。その最大のものは、自民党という与党議員を支援すれば、行政は自分たちの利益のための政策を実践し、多くの見返りが予想できる、というものだ。ひょとしたら、役人と結託している与党議員から、「得をする」情報も、手にはいるかもしれない。「地域開発に関する入札の「予定価格」が分かれば、これ以上いいことはない」という具合である。誰しも、そう期待する。だから、企業も商工団体も医療団体も献金や選挙支援をするのである。誰も、自分たちの利益が予想できなければ、そのようなことはしない。
この「役得」の中には、かなり「せこい」ものもある。しかし、この「せこい」ものが、集票力に大きく影響する。その典型例が安倍晋三後援会主催の「桜を見る会」前夜祭である。参加者は会費5000円で、1万円以上の飲食を味わうことができたからである。それも、会場のホテルは日本では一、二の高級ホテルのニューオータニである。その差額が、自民党側の負担になるのは言うまでもない。
このような後援会員に対する接待は、数多く行われる。国会見学会などは、その参加者によれば、有力者議員の力で、通常禁止されている施設も特別許可を取得し、閲覧させる。国会衛視は、有力議員がいるので、最敬礼である。参加者の後援会員にとっては、この上ない「役得」である。勿論、後援会員だけでなく、町内会員、商店会員等を勧誘するのも常である。参加者は、僅かな会費で、「いい思い」をして帰るのである。
これら以外にも、自治体関連や業界関連の新年の会合から始まって、さまざま会合に議員は顔を出す。議員には野党も一部いるのだが、ほとんどは自民党である。会合は必ず飲食を伴うので、自らの会費以上にカネを包むことになる。
さらに、もともと議員自身も「役得」を期待して政権与党にいるので、自分もたまには「いい思い」をしたくなる。自民党女性議員が党の予算で欧州見物をし、エッフェル塔前で、はしゃいだ姿が顰蹙を買ったが、これもその例である。さらに、「政策活動費」で、私的な飲食、私物の購入しても、「ばれる」ことはない。
こういったカネはいくらあっても足りないし、当然のことながら、そのカネは適法の範囲では処理できない。したがって、当然のように、「裏金」づくりに知恵を絞るのである。
このような政党が、現代でも生き残っているのが、不思議である。
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