PCR検査の拡充が感染拡大防止に繋がるのは、自明の理
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が、東洋経済onlineに「厚労省『PCR拡充にいまだ消極姿勢』にモノ申す」(1月13日)と、政府がPCR検査の拡充に動かないことを批判している。その中で、上氏は検査が増えないのは、「厚生労働省で医療政策を担う医系技官と周囲の専門家たちがPCR検査を増やす必要がないと考えているからだ。」とし、厚生労働省が大規模PCR検査には予防の効果はないと真意では固執しているとしている。それに対して上氏は、医学誌「ランセット」からの論文で「無症状の人へのPCR検査が有効で、積極的に検査を活用すべきと結論 」が出ていることを指摘している。
PCR検査を拡充すれば、それだけで感染が収束するとは考えられない。しかし、無症状の感染者を見つけ出し、その先の感染を止めるためには、PCR検査の拡充しかなく、それが感染拡大防止に繋がるのは、もはや自明の理である。だから、4人の医学系ノーベル賞受賞者が拡充しろと提言し、日本以外の一定の検査能力を持つ国では、大量の検査が実施されているのである。政府が積極的に進めなくても、地方行政が拡充に乗り出している。東京世田谷区は昨年から実施され、広島市でも2月上旬から大規模なPCR検査の予定が発表されている。
政府の国会答弁も、1月21日、菅首相は参院本会議での野党の質問に、PCR検査体制に関し「これまでも都道府県と連携し、可能な限り拡充を図ってきた」と 答えている。菅首相だけでなく、安倍首相も度々「拡充の方針」を口にしていた。両首相とも言葉だけは、検査拡充の必要性を口にしているのである。また、政府の分科会委員である日本感染症学会の舘田一博理事長 も「行政はPCR検査を拡充して感染者を早期発見し、ウイルスの封じ込めを 」(2020.12.12西日本新聞)と言っている。しかしながら実際の検査数は増えてはいるものの世界各国と比較すると、はるかに少ないままである。その逃げ口上に「必要な方が受けられるようにしたい」(1月7日産経新聞)と言っているが、亡くなった羽田議員のように、実際には、必要な時には受けることができないのが現状である。それは、政府は必要性を口先だけで認めているが、検査自体の能力はありながら、その他の理由でできないのである。日本の検査能力は、民間で実施されていることから分かるように、充分あるのだが、政府がやりたがらないのである
PCR検査の拡充の問題
PCR検査の拡充には、広く伝えられている問題に、偽陽性と偽陰性がある。これは、医療現場の医師や少なくない専門家にも指摘されている問題である。特に「偽陰性の者が、油断して感染を広める」という懸念である。しかし、これは検査の精度を徹底して説明すれば、ある程度は抑えられるものである。それより、陽性者を発見・隔離できる利点がまさるのは、上記の論文でも明らかだろう。
政府が大規模検査を渋る要因の中には、検査で今以上に感染確認者数が増えるのを嫌っているというのもあるだろう。感染確認数が多いと失政の印象を与え、五輪の強行にも、不利に働くからだ。しかし、それよりも、上昌広氏は触れていないが、実はもっと厄介な問題がある。大規模検査での陽性者の隔離施設や医療機関、医療スタッフが不足しているという問題である。医療現場は、今以上の施設的充実が要求され、隔離施設も増やさざるを得ない。そこに医療スタッフもさらに必要となる。。保健所もパンク寸前である。今でも崩壊の危機にあるものが悪化するのである。すべて、政府がGoToキャンペーンなど「経済再開」を優先させ、医療体制を充実させなかったツケである。
政府は、GoToキャンペーンの予算は計上しても、医療体制の充実には予算も人も増やしたくないのである。それは、コロナ収束後も残ると考えられるからである。政府の基本政策である新自由主義的行政改革に反するのである。
要するに、現在の政府では、PCR検査の充実は不可能なのである。
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