【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」㉗
最初のパークゴルフの会を辞めて1年が過ぎた頃である。あの佳代子さん(仮名)からメールが来た。内容は、私(岩崎)からの古いメールを見つけたが、楽しかった頃を思い出したので、「また一緒に遊んで欲しい」云々、である。夫に酷い文面のメールを送ってきたことなどは、すっかり忘れているらしい。近頃になって「佳代子さんには困った」の情報が、この文の冒頭に書いたように、やたらと私の耳に入るようになった。
駅前センターの憩いの部屋で、むつみ会のカラオケ部の人が歌っているところに現れた佳代子さんは、自分も「歌いたい」と希望したという。以前にむつみ会を辞めた経歴があったので、担当者が「再度むつみ会に入会してカラオケ部に入部するように」と言うと、即入会・入部をしたというではないか。むつみ会は第2日曜日の午後に定例会があるから、「必ず出席するように」と、何度も念を押したそうだ。
むつみ会の定例日がやってきた。ちょうどその日は、私の住まいの自治会が主催する「餅つき大会」の日でもあった。私はそれに参加してから、途中で抜け出してむつみ会に出席した。新人紹介の欄に佳代子さんの名前があるのにびっくりしたが、本人は来ていない。会長は「今日は来ておられませんが…」と、腑に落ちない顔付きであった。
さて、家に帰ると夫からびっくりニュース。
「お前の抜けた後に、彼女が餅つき大会に来たぞ!」
「え~っ! なんで~?」
と、私。
夫にもさっぱり理解できなかったようだ。受付で訳の分からないことを言っていたようで、住人でもない人の乱入(?)に、受付の人も困っていた様子だったという。
後から聞いた話によると、彼女は「ダンスの会がある」と言っていたとか。私たちの住まいのコミュニティ棟で行われている同好会(卓球・ダーツ・ダンスなど)に、参加しているらしい。棟のドアが開いていれば「何をしているの~」と、入ってきてしまうそうだ。卓球をしているある人が、困り果てた顔で私にぼやいた。
「佳代子さんが来ると、雰囲気が壊れるので嫌なのよ~」
住人でもない人が受け入れられた原因は、彼女が何の会にもすぐに「入ります!」の前向きと思える態度と、既会員の寛容な人たちのお陰だろう。彼女の手帳は真っ黒になるほど、予定が書き込まれていて、自分で理解出来なくなっているらしい。約束日や時間もすっかり分からない状態のようで、トラブルが絶えないようだ。電話で確認をした人のことも、内容も、何もかも忘れてしまうらしい。
私が通っている体操教室のコーチは、佳代子さんから「岩崎さんという人、来ていますか?」と、質問された。この教室を辞めたのに、また入会してきたそうだ。今度は別のコーチに「佳代子さんって、どういう人ですか?」と聞かれたので、「いろいろ問題があるかもしれませんので、お気を付けください」と答えた。
そのコーチ曰く、「今日は営業していますか」という電話が毎日入り、日曜にも同じ内容の留守電が入っているのだとか。その後も整髪料をべっとりとマシンにつけてしまうので、注意をしたことも。
まだある。体操をするときは「水を持参するように」と、コーチが言うと、「私は運動の時は水を飲まないので!」と、高飛車に反抗的な返事をしたとか。極め付きは靴の間違えの騒ぎがあったが、やはり佳代子さんの仕業だったとか。いやはや!! いや、まだまだある。他の人からも、「佳代子さんには困った」情報が伝わってくる。でも、ここに書ききれないでやーめた。
こうして私のまわりから、次々と佳代子さんの「迷惑」「困惑」話がしきりに囁かれることになったのは、何故なのか。
最初のパークゴルフの会では、佳代子さんを擁護していた人からも退会を宣告された、と聞いた。勤めていた会社も辞めたようだ。かつて佳代子さんから、私が聞いてもいないのに「出戻りの娘が」と言いながら、娘さんとの喧嘩の話や、家事はご主人が全面的に受け持っている話を思い出した。今はきっと時間を持て余して、あちこちへの「入会します!」宣言をしているのだろう。そして約束した日や時間を忘れ、分からなくなる。
今は、本人が苦しくなっているのではないだろうか。病気が原因かもしれない。ご家族はご存知なのだろうか。佳代子さんに寄り添っておられるのだろうか。周りにいる者も、邪険にしないで優しく接することも、大事だろうとは思っているが、他人がとやかく言うことでもない。私自身が怪しい年齢であることも十分に承知しなければ。
私には事務能力がないのに、パークゴルフの会でしていた会計や会長から解放されたことは、何よりもほっとしている。縁があって「白井健康元気村」を知り、健康に良い話が聞けそうと、軽い気持ちで入会した。すると、いきなり私は「パークゴルフ」の係になってしまった。会員の皆さんのことは何も知らないド新人を、いきなり起用するとは何ごとか!
この会の私の居場所を作って下さったのだろうが、玉井村長さんの人脈に頼るしかない。そして、もっと大変なことが起きた。自ら望んだことではないのに、こうして、愚にもつかない文を書き連ねることになってしまった。
本当は何を題材にするのが良いのか分からない。いつもマイナス思考の私である。ま、気楽にたったひとりでも私の考えに同感だと思って下されば、それで良いと言い聞かせるしかないか。