【気まま連載】帰ってきたミーハー婆(52)
マスク、外したいよね!
岩崎邦子
芝生の緑が冴える中、カルミアの花がその愛らしい姿を見せて、パークゴルフをするには絶好の季節となっている。八千代パークゴルフ場では、この花をコースの所々で見ることが出来る。
開花は4月から5月にかけて。ツツジ科に属する常緑樹の低木でピンクの小花が幾つも寄せ合い、花も蕾も何とも可愛いい。その形はまるで金平糖のようだ。
プレーを楽しんでいると、女性が花の名前を訊ねたらしい男性に向かって「カルミア~!」と、大声で言っている。次のホールに向かって歩いている私と目が合う。
「コンペイトウとも言うよ」
マスクをしていない私をじっと見つめながら言われた。
「はい、コンペイトウの花ですね」
私も答えた。
彼女に「じっと見つめながら」と言っても、なにも「怖い顔をされた」のではない。
私は外出時にはマスク着用を心がけているが、パークゴルフでは、マスクを外してプレーをする。
大半の人がマスクをしてのプレーに臨んでいるが、女性の中には、普通のマスクではなくフェイスマスク(耳にゴムを掛け、目の下から首をすっぽりと覆う)というのをしている。
その素材や色・形は様々で個性的ともいえるが、黒の布で顔全体が覆われていると、気味悪く強盗にでもあったようで怖い。なので、マスク着用をしっかり守ってプレーをしている人からは、私は異端者に見えるかも。
私はコロナワクチンを3回接種している。でも、マスク着用のプレーでは息が苦しくなって仕方がない。高齢者にはコロナより熱中症の方が怖いのだ。そんなわけで、私のマスクなしは、プレー仲間には了解を得ている。
ところで、政府は5月20日、マスクに関する政府見解を発表した。5日後の25日には厚生労働省がコロナ対策としてマスク着用が必要かどうかの目安を示すイラスト入りのチラシを作成する。それによると、マスクを外しても良い例は――
《屋外》
・周りの人と2m以上、離れている。
・離れている距離は不十分だが、会話はほとんどない(例=ランニング、鬼ごっご、散歩など)。
《屋内》
・2m以上の距離があり、会話もほとんどない(例=人の少ない図書館や美術館)。ただし、未就学児には、着用を一律には求めない。
テレビ・ニュースを見ていると、小学校の運動会の練習で先生が合図をして、やっとマスクを外す児童たち。マスク無しの日常生活には臆病になる様子も語られている。
幼い子供を預かる施設の人は、顔の表情から言葉を覚えたり感情の起伏を学んだりするのに、マスクを外せないまま幼児と接しているのだ。また、通勤風景でも会話などはないのに、大多数の人がしっかりとマスクを着用しているではないか。
さて、思い返してみると私がマスクをするのは、風邪を引いた時か、寒い時の外出時に着用することで「寒さ除け」にもしていたくらいだった。その寒さ除けに対して、常備しているマスクではなく、孫から教わった新ポリウレタン製のマスクを手にして、得々とした気分で出かけたことがあった。それは2020年の冬の事で、そのマスクについて「通気性が高く息がしやすい」「長時間かけても耳が痛くならない」「3回洗っても花粉カット99%」などと書かれていて、フィット感が良く眼鏡の曇りもなかった。
この頃に中国が発祥の地とされた新型コロナウィルス肺炎の脅威が、世界中に広まるニュースで驚かされ始めていた。春節を迎えた中国人のほとんどがマスク姿となった画像や、日本で使い捨てマスクをあちこちの店で、次々と買い漁る女性の姿が。中国の知人にでも送るのかと思わされた。
マスクの工場では、製造に拍車をかけるも需要に追いつかないのだとも。でも、「ウィルスや細菌のサイズを考えたら、マスクでは防止できないのは明白」という声もあり、外出自粛が叫ばれ始めた。友人たちと出かける予定も会う約束も、すべて反故に。
2年前の春になると、布製のマスクを着用する東京都の小池百合子知事の姿が大きくテレビ画面に映し出された。いつの間にか「マスクでは防止できない」の説はすっかり忘れられ、マスクをすることの奨励が叫ばれることになる。
小池効果があったのか、俄然、自前の布製マスクを作ることに拍車がかかる。手作り教室の先生は何百という枚数のマスクを作られ、施設などに寄付をされて、私達も及ばずながら制作の協力をした。
アメリカ・ニュージャージー州に3月の初め春休みで帰省した孫も、日本との行き来が出来なくなってしまい、オンライン授業を受けながらも、可愛い布で手製マスクを作っている様子。アメリカでの感染者のあまりの多さが心配されたが、マーケットでのマスク姿の人はちらほらで、わずかだとか。
当時、ニューヨーク州での感染者の多さに歯止めを掛けたいはずなのに、州知事のクオモさん、大統領のトランプさんら、アメリカの政治家たちのマスク姿は、画面で見た記憶がない。
彼らは、医療崩壊にならないよう、全力を尽くすための数々の政策を語っていたように思う。一方、日本の政治家たちは、ほぼ全員がマスクをしていて、その重要性が力説されるようになった。
マスク不足や買えない人たちへの考慮なのか、国民へマスクが送付されてきた。いわゆる「アベノマスク」である。布製でサイズが子供用のように小さめなので、まるで「給食マスク」と、揶揄されていた。
どこかの地方議員は、独自の持論があってマスク着用を拒否、議事室への入室を止められるという騒ぎも起こる。よく考えてみると、小市民の私たちは真面目にお国の説に従い、反発もしないでマスク着用をしていたのではないだろうか。
好みの布で作った自家製マスク、夫の弟からも職業用ミシンで作られた見事な出来栄えマスクも加わって悦に入っていると、今度は「不織布マスクの方が感染防止の効果あり」の説が語られるように。そのためか、我が夫は、不織布マスクに布製マスクを重ねる二重マスクをするようにもなった。
小池さんの、不織布マスク姿でのニュース画面が効果的だったのか、布製マスクの効果には疑問符がついてしまって、不織布マスクが巷にごまんと満ち溢れるようになった。色や形もいろいろあり、一箱に何枚も入っているので、私は小花などのシールワッペンをマスクの隅に貼り、自分なりの区別を付けている。
毎日のニュースでは、「本日の感染者数」が発表されて、少々の増減にも驚かなくなってしまった。相変わらず、医療従事者の方々のご苦労が続いていることは、重々に承知していても、である。
諸外国、とくにヨーロッパなどでは、マスクを外した人々が大らかに生活を楽しんでいるようだ。ところが、日本はどうか。好天に恵まれて、散歩に出てみると、単独の歩行者も、自転車の人も、高校生たちも、99%の人がマスク着用は当然のこととしている。
マスク着用が叫ばれ、すっかりマスク生活に慣れ切った人々が少なくない。せっかく厚生労働省が「マスクを外しても良い例」を提示したのに、それを即、実行させるには至らないようだ。
コロナ騒ぎになってから3回目の夏、つまり令和4(2022)年の夏が目の前に迫って来た。ワクチン4回目の接種準備が整った自治体では、60歳以上や持病のある人から接種が始まるのだとか。コロナの恐怖より、熱中症の方が怖い夏。マスク、外したいよね!
【岩崎邦子さんのプロフィール】
昭和15(1940)年6月29日、岐阜県大垣市生まれ。県立大垣南高校卒業後、名古屋市でОL生活。2年後、叔父の会社に就職するため上京する。23歳のときに今のご主人と結婚し、1男1女をもうけた。有吉佐和子、田辺聖子、佐藤愛子など女流作家のファン。現在、白井市南山で夫と2人暮らし。白井健康元気村では、パークゴルフの企画・運営を担当。令和元(2018)年春から本ブログにエッセイ「岩崎邦子の『日々悠々』」を毎週水曜日に連載。大好評のうち100回目で終了した。