【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」㊹
アメリカから来た孫 その２ 
娘はニュージャージー州のプリンストン市に住んでいるが、孫が小さい頃は、折に触れ出向いていた。洋服やおもちゃなどを見るために、モールやデパートなどに出かける。ベビーカーを押して歩くのだが、すれ違う人たちの目線が孫に集中する。東洋系が入った顔つきが気になるのか、「ワァーオ！ キュート！」の連発となって、しばらく孫から離れなくなる。
商品を見るために、ほんのわずかでもベビーカーから離れると、近くを歩く人から即刻注意をされる。どうやら小さい子や赤ん坊を誘拐する事件が結構あるとのことだ。娘に聞くとその犯人の大半は、別れたパートナーであることが多いようだが、違う目的のある誘拐も時折起きていたようだ。牛乳パックなどに子供の顔写真が載っていたりしていたが、それは行方の分からなくなった子供の捜索・人探しの広告だという。お節介ともいえる監視の目はありがたいのかも知れない。
日本ではもてはやされるが、アメリカでは「とんでもない」と、言われることがある。小さな子供にさせる「はじめてのお使い」が好評のテレビ番組のことだ。テレビ局では撮影クルーなどが子供を取り巻いているから、安全には留意しているとはいえ、である。13歳、つまりティーンエイジャーになるまでは、必ず保護者がつかなければならない。子供だけでの行動はご法度である。
子供に留守番をさせて所用に出かけることや、寝ているからと車の中に残して、買い物やパチンコをしていて起きた事故を、報道などで聞くことがある昨今だが、なんとも胸の痛いことである。
もう一つ、小さい子供に対する事柄で、驚いたことがある。パジャマなどは、肌触りの良い木綿で、可愛い色や柄が一番好まれ、選ぶのだが、アメリカでは素材に木綿はダメだという。万が一火事になったりした時のために、カーテンなどと同じように不燃素材であることが、第一であるという。
今では日本にも大型ショッピングセンターがあるが、モールに出かけるのは、大人も子供も楽しみの一つでもあった。種々の有名なお店が立ち並び、冷暖房の効いた館内の広い遊歩道を歩くのは、目の保養や交通安全にもなる。この快適な場所でウォーキングをしているらしき年配グループも見かけた。
ここのフードコートを利用してランチタイムにする。テーブルを確保してから、周りにあるお店で食べ物をチョイス。ハンバーガー、ピザ、タコス、ブリトー、ポテト、ナゲット、ヌードル、揚げ物に砂糖をまぶしたドーナツ風のもの、韓国風の寿司、名前が分からないものなど、いろいろなものがある。周りを見て少し驚いたことは、老婦人が白菜をまるでレタスのように食べていることだった。
孫にはチキンナゲットやオニオンリングやポテトを。私のお気に入りは、これも名前が思い出せなくて残念だが、ソテーしたスピナッチを巻いたブリトー風の皮に包んで焼いた香ばしい食べ物だった。これは、なぜかあちこちのモールにあるのではなく、孫たちのグランマの家の近くだけにあった。今となっては懐かしい思い出である。
娘のところに行けば速攻で私は食事の係となる。行った日くらいは、何か食べさせてよ、ではあったが、つまり客として扱うのではなく、この家での私の居場所を作ってくれていたのだろう。食材はもちろん近くにある巨大マーケットで求めるのだが、チャイニーズやコリアンのマーケットでは日本食材も少しはあるので利用する。時には少し遠出となるが、マンハッタンのビル群が見えるハドソン川沿いにある日本食を扱うスーパーマーケットのヤオハン（のちにミツワ）にも買出しに出かけた。ここでは日本企業の駐在員家族の人たちの姿が多く見られた。
私は、夕食にはほぼ日本食を作るのだが、婿も孫も喜んで食べてくれるので救われた。ご飯はもちろん味噌汁も煮物もお浸しも大丈夫だ。お好み焼きや、手巻き寿司なども食べるが、たった一つ、孫たちも好物のしらす干しを婿は大きな体に似合わず、「目が怖い」と言ったことに呆れた。なるほど、食習慣の違った生活をしてくれば、魚の頭や目は気味が悪いのだろう。
もう何年も前の出来事を、こうして書き連ねらねていると、断片的ながらあの事、この事と、忘れていたことや記憶違いもあるだろうが、次々と芋づるのように、思い出がよみがえってくる。
