「ごきげんよう、浮き世夫人よ」
浮き世はこなごなに砕かれている
かつてわたしたちは浮き世を大いに愛した
今はもう死ぬことも
それほどわたしたちをこわがらせない
浮き世をさげすんではならない
浮き世は色どりと野生に富んでいる
古い古い昔からの魔力が
今も変らず、浮き世のまわりにただよっている
感謝して別れよう
浮き世の大きなたわむれから
浮き世は楽しみと悩みを与えてくれた
愛を豊かに与えてくれた
ごきげんよう、浮き世夫人よ
また若くつややかにお化粧なさい
わたしたちは、あなたの幸福にも
悲嘆にも満ち足りた(高橋健二訳「ヘッセ詩集・P.264~265」小沢書店)
BGM-A