かつて、私が大阪に住んでいたころ、しょっちゅう食いに行っていた中華料理屋がありました。
それが、今日ご紹介する「とん助」。
大阪府柏原市玉手町の住宅街の中にある小さな中華料理店です。
大きな幹線道路に面しているわけでもなく、駅前にあるわけでもない。それこそ地元の人でなかったら絶対に知らないような、町の中華料理屋さんです。
とにかく、ヤキメシがウマい。タマゴと屑ハムのおっそろしくシンプルなヤキメシなのに、ちょっと余所にはないようなクセになるヤキメシ。
ラーメンもシンプルで飽きのこない味。ギョウザは、手作りの、そして、やはりちょっと余所にはないような味の美味しいものでした。
仕事をいただいて大阪を離れるときは、「もうこの店にもなかなか来れんようになるなあ」と思ったものです。
果たして、兵庫県で職を得てからというもの、南河内地方は遠く、全く「とん助」を訪れることもできませんでした。
月日は流れ、私が大阪を去ってから約8年、平成17年(2005年)のこと。
私が愛した近鉄バファローズが消滅し、そのショックに追い討ちをかけるように思い出のたくさん詰まった藤井寺球場の取り壊しが決定。「藤井寺の市民祭り(だったと思う)が、一般人として藤井寺球場の中に入る最後のチャンス」との報に接し、居ても立ってもいられなくなり、なんとか仕事の都合をつけて藤井寺に行くことにしました。
まず、昼メシは「とん助」のヤキメシとラーメン。そして、その後、藤井寺球場に移動し、目一杯名残を惜しむつもりでした。
昼前に到着した私は、秘密の場所にクルマを停め、なつかしい町並みを歩きつつ「とん助」を目指しました。
やっと到着。そこで私が見たものは……。
なんと、「売物件」と書かれた不動産屋のカンバンでした。
そんなバカな……。
しばらく店の前で呆然と立ちつくしました。
小さいとはいえ、近所の人達に愛されているお店。そう簡単にツブれるだなんて、信じられません。
わけがわからなくなりながらも、とりあえず藤井寺球場へ行き、藤井寺球場に別れを告げた後、もう一度玉手町に引き返し、かつてお世話になっていた居酒屋へ行きました。
居酒屋のママさんによると、「とん助のマスターなあ、体悪くして休んではるんよ……」とのこと。
わづか7~8年ほどの間にそんなことになっていたなんて……。
しかも、せっかくテナントから出て自分の店を構えていたのに、その店を売りに出しているぐらいだから、廃業してしまったに違いない。もう年も年だろうし、跡継ぎもいないし……。
そう思い、それ以来、私の中ではもはやあの「ヤキメシ」は「幻のヤキメシ」になっていたのでした。
そうしてそれからさらに約6年半。
大学生の頃住んでいたあたりのことが懐かしくなり、この間の休みの日に、嫁さんを連れて行ってきました。
すると!
何と、「とん助」の角に「ラーメン」とか、「チャンポン」とか書かれた幟が立っているではないか!
しかも、6年半前に「売物件」のカンバンが掲げられていた店の建物は、かつて営業していた当時のまま。
ま、まさか……。
でも、別の人が入って新たに中華料理屋を始めたのかも知れんしな……。
この時点ではまだ朝の10時過ぎ。「とりあえず、昼メシどきにもういっぺんここに見に来よう」と言って、嫁さんと一緒にDAHONで玉手町~道明寺~土師ノ里~藤井寺エリアを散策。
昼の1時過ぎに再び玉手町に戻ってきました。恐る恐るかつて「とん助」だった場所へ行くと……。
おおおおお! やっぱり「とん助」や !!!!!!!!!!!
ふ、復活してたんや…… !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
私は、もうこの時点でほとんど涙が出そうになっておりました。実は、私は「とん助」のマスターにメチャクチャ世話になっていたんです。
テナントから出て、この場所に自分の店を建てたときに作ったのれんと提燈! 紛れもなく「とん助」のもの!
壁に埋め込まれるようにつるされた提燈群もそのまんま! もう間違いない!
でも、単に店の名前を受け継いだ、ってこともあるかも知れん……。
どきどきしながら、恐る恐る入口の引き戸を開け、中へ入ると……。
だいぶお年は召したものの、見覚えのあるマスターと、奥さんが!
コソコソと店に入ってきた大男を怪訝そうに眺めるマスターと奥さん。
「あの、お久しぶりです。ぼくのこと、覚えてはりますか……?」と訊く私。
ややあって、「ああ~、もちろん、覚えてるよ!」と相好を崩すマスター。
十数年間に及ぶ空白が、一挙に埋まった瞬間でした。
ちょうど他にお客さんがいなかったので、6年半ほど前に来たときに店が閉まっていてもうすっかりあきらめていたこと、今日たまたまそばを通りかかったら駐車場のところに幟が立っていたのでダメもとで来てみたということを告げました。
マスターが言うには、脚を悪くして平成16年ごろから3年ほど店を畳んでいたとのこと。また、今でも脚の具合は良くないので、品数を減らして細々とやっている、ということでした。
確かに、厨房内を移動するときもびっこを引くような感じで、つらそうでした。
それでも、すっかり「とん助」のことをあきらめていた私にとっては、マスターが「とん助」を続けて下さっているだけで奇跡。もううれしくてうれしくて、実際、ほんの少し涙が溢れていました。
確かに、かつてのことを思えば、ずいぶん品数は減りました。それでも、マスター得意のやつはほぼ健在です(まあ、当たり前ですけど)。値段もたぶん15年前からほぼ変わっていません(ただ、最近は激安のファスト・フード店が住宅地にまで進出してきているのでかなりしんどいのだそうです)。
よく見たら、「しお ラーメン」とか、「カス ラーメン」とか、「にんにく ラーメン」のような新メニューができています。
そういえば、「とん助」がこっちの店に移ってきた15年ほど前は、私がPCで「一太郎」を使い始めた頃で、メニュー表を「一太郎」で作って、店で使ってもらったっけ。
定食も「とん助」らしいラインナップ。ギョウザも唐揚も酢豚も、そしてヤキメシも、「とん助」自慢のメニューばかりです。
私は、大学生時代同様「ヤキメシ定食」、嫁さんは「ギョウザ定食」を選びました。
ラーメンは、私が「しょうゆ」、嫁さんは「みそ」です。
料理ができあがるのを待つ間、私は嫁さんに、「とん助」の思い出を熱く語りました。ときどき厨房に目を遣りながら……。
一所懸命に鍋を振るマスターの変わらぬ姿にまた涙……。もっと早く復活に気づいていたらなあ!
「ヤキメシ定食(¥800)」。
こちらの「ヤキメシ定食」は、「半チャン」とか、「ミニラーメン」とか、セコいことは申しません! どちらもしっかりフルサイズ! しかも、ヤキメシは大盛にするとほぼ2倍(正確には1.7倍ぐらい?)になりますよ!
そして、思い出のヤキメシ、一度は幻とあきらめていたヤキメシを一口……。
ウマい!
まさにあの時のまま! 具はタマゴと屑ハムのみ。シンプル極まりないヤキメシなのに、他のどこにもない味! この味を再現しようと挑戦して何度失敗したことか!(笑)
絶妙なパラパラぶりも、今改めてすごいなあと感じます。
そして、ラーメン。あの当時に比べると、トッピングが少し変わりました。ゆで卵とナルトが付け加わっています。
まずは、スープをひと口……。
アレ? 味が変わった?
あの頃は、スッキリとした切れ味のあるオーソドックスな鶏ダシの醤油味(こっちで言えば、小野の「好きやめん」の醤油ラーメンみたいな味)だったと思うのですが、今は「和風」になっているのかな?
鶏ダシにカツオでも合わせているんでしょうか?
麺も、変わったように思います。かつてのしっとりシコシコ麺から、つるつるもっちり麺に変わっていました。
かつての味も好きでしたが、今の味は今の味で、クセになる味だと思います。ああ、また食いたくなってきた……。(笑)
地味ながら、この焼豚も「とん助」自慢の逸品なのです。歯応えがあって、しっかり豚の旨味があって、香ばしくて……。
ただでさえウマいのに、懐かしさとうれしさで、何倍も美味しく感じました。
「ギョウザ定食(¥700)」。
そしてコチラが「ギョウザ定食」。
「みそラーメン」です。私はこの店ではずっと「しょうゆラーメン派」でしたが、実は常連さんの間で根強い人気を誇るのがこの「みそラーメン」なのです。
味噌の香りがかなり強く、その割に変な甘ったるさのないキレのあるスープ。人気があるのもうなづけます。
そして、見た目は普通ですが、実はかなり個性的な「ギョウザ」!
マスターと奥さん手作りのギョウザ。一見ごく普通のギョウザなのですが、ニンニクの風味は抑え気味で、そのかわりにニラの風味が強くでているのか、一風変わった味わいの、あっさり美味しいギョウザなのです。
地元の人でなければ行きづらい店なのかも知れませんが、この「とん助」の味は、是非多くの方に知ってもらいたい!
駐車場もちゃんとあるので、もしもメシ時に近鉄道明寺駅、または近鉄河内国分駅の近辺を通りかかることがあったら、ぜひ一度お立ち寄り下さいね! この私が猛烈にオススメするお店です!
※ 鉄道ファン(特に乗り潰し系の方)なら、あの「近鉄道明寺線」乗り潰し遠征の際の昼食 or 夕食に立ち寄ってはいかがでしょう? 近鉄道明寺駅から徒歩10分足らずですよ。
かつて、カウンターのこの位置で「ヤキメシ&ラーメン」や「ヤキソバ定食」ばっかり食っていました。
「まるで居酒屋」な造りです。
箸袋もあの時のまま! ……と思ったら、局番が3ケタに変わっているので、リニューアル済みのようです。(因みに、市外局番は072です。)
南河内はちょっと遠いんですが、また機会を見つけて食いに行こうと思います。
「とん助」のマスター、奥さん、お体を大切に、いつまでも末永くお店を守って下さいね!
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【地図はコチラ】← この地図の住所は、「とん助」の向かいにあるマンションの住所です。