笑う寿司職人

 また回転寿司に行った。
 案内されたのはこのあいだ来たときとは別の席であったのに、カウンターの前で寿司を握っているのは、あの、職人気質を絵に描いたような気難しい顔の職人さんだった。職人はほかにもたくさんいるのに、なぜまたこの人なのだろうと思う。人の顔を覚えるのが不得手なので、もう彼の顔の細かいところは忘れていたのだけれど、あらためて見るに、この前描いた猫化似顔絵はなかなかよく出来ていたと我ながら思った。
 大人は、次に何を食べようかと回ってくる寿司の皿ばかりを注視していたが、子供は、その皿の向こうで職人さんが行っている寿司作りひとつひとつが気になるらしい。かんぱちかなにか白身魚の三枚に下ろした切り身の片側を、まず縦に切ったのを見て、細長くなったね、などといちいち実況中継してくれる。次に、恐ろしいほど刃渡りの長い包丁で魚の切り身を短冊形に切りそろえていく様子を、子供が何か彼のプライドに触れるような余計なことを言わないかしらと思いながら私も見ていた。
 かんぱちを切り終わると、鮮やかな赤い色をしたまぐろの短冊を出して、握った寿司飯の上に乗せた。それを見て子供が、今度は人参作ってはるね、と言った。
 一瞬間があって、彼が、険しい顔をまぐろに向けたまま、口を開いた。これはな、美味しい人参やで。
 そう言って、ちょっと顔を上げて、にやっと笑った。


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