蒸気機関車の撮影で一番のシーンは、峠越えのポイント。上り坂が続く勾配区間での蒸機の表情はいつも素晴らしいものだ。それは線形や景色もさることながら、やはり音と煙の圧倒的主張だろう。何度撮影してもまた撮りたい!と思える一種の陶酔状態となる。そのファインダーの中の蒸機は、アントンKにいつも「前に進む」という勇気を気づかしてくれる。とても大きく頼もしく雄大に思えるのだ。音楽なら楽曲のクライマックス(頂点)までの経過部の長いクレッシェンドとでも言い換えられるか。一音も聴き逃すまいと神経を集中しているのと同じように、ファインダーの中で迫ってくるカマに負けまいと全神経をこの画像に集中してシャッターを下ろしているのだ。
写真はかつての釜石線のD51。この宮守の上り坂は今でも人気のポイントではないか。この日は真夏なのに物凄かった!カマがファインダーの中に入ってきても中々大きくならない。ここの25パーミルの上りにデゴイチがあえいでいるのだ。物凄く濃く大量の爆煙が立ち上り、ブラストが山にこだまする。フィルムが無くならないように慎重にシャッターを切るが、迫りくるデゴイチの迫力とともに興奮をあおられてしまい、いつしか気持ちのままシャッターを切っていた。
1990-07-29 9601レ D51498 JR東日本/釜石線:宮守-柏木平にて