上岡敏之指揮による新日本フィルハーモニーの幻想交響曲に行ってきた(2日目)。
今回はシーズン最後を飾るに相応しいリクエストコンサートとなり、幻想交響曲が選出されたということらしい。聴衆自らが事前にアンケートに応募して選曲するスタイルは、過去にもあったかどうかわからないが、演奏する側にも、おそらくいつもとは違う思い入れが加わり、良い緊張をもって演奏に臨めたのではないか。今こうしてこの演奏会を聴き終わってみて、どこかいつもとは違う雰囲気がホール内に漂っていたように思っている。
さて今回のメインプログラム、ベルリオーズの幻想交響曲だが、やはりというか指揮者上岡の独自性の強い演奏となり、アントンKの想定のはるか上をいく素晴らしいものだった。これは、長年親しんできたクラシック音楽の分野でも、特に有名な楽曲の一つである「幻想交響曲」だが、録音を含めた過去にも体験のないほどの衝撃を受けた演奏だったと断言しておく。ちょうどそれは、40年近く前にFM放送から流れてきたチェリビダッケの「新世界より」を聴いていて受けた衝撃に酷似しており、何十何百と聴いてきた有名な楽曲だから、自身で知り尽くしているとおごっていたアントンKをあざ笑うかのように、新鮮さとともに身体に飛び込んできたのだった。この時、クラシック音楽の「深さ」というものを再認識したと同時に、自分では理解したと考えていた有名な楽曲も、さらに深く聴き返してみたくなったことを今回思い出したのである。
アントンKは、ここ数年上岡敏之を毎回聴きにホールへと足を運んでいるが、やはりドイツ音楽中心で今回のようなフランス物は初めて。長年ドイツで研鑚を積んだ上岡氏なら当然なのだが、今回の絢爛豪華な幻想交響曲にどう立ち向かうのかが、最大の聴きどころだった。SNSなどでの事前情報にも目を通してはいたが、実際の演奏はそれらとは印象が異なっており、第1楽章から上岡トーン満載だった。夢心地の様相を呈した柔らかい序奏部が開始され、主部のテーマが開始されると、いよいよ上岡氏の主張の連打となる、息づかいに合わせて揺れ動くテンポは実に自然体であり、あっという間にアントンKもその音楽に引き込まれそうになる。8分音符で繰り返される弦楽器の伴奏がしっかり聴き取れ安定感を増していて心地よい。細部に渡り上岡氏の指示が目の前に見てとれるのだ。続く第2楽章は、ポルタメント多様の美しい優雅なワルツ。オケ全体が明るく響き、ハープが華を添えている。第3楽章では、木管の音色がわびしく響き、どこか懐かしさを誘う。しかしここでのまるで絵画を見る様な遠近感のある情景は素晴らしかった。打楽器による雷鳴も、どこか遠くで鳴り安堵の気持ちが湧いてくるのである。しかし、そういった安らかな雰囲気はここまで。いよいよ怒涛の第4楽章~第5楽章へと進むのだ。
それまでの全奏になっても決してオケを絶叫させない上岡流は定説通りだが、ここからは解禁されてオケが自由自在にポイントで自己主張する。アントンKが度肝を抜かれた表現は、第4楽章では金管楽器で奏されるマーチ主題の表現。主題後半のミーファーラーソを特に大きく目立たせていて、オーケストラ全体をキリッと占め上げていた印象。そしてそのフレーズの終わりの弦楽器による合いの手も、異常なほど鋭く緊張を誘うのだ。後で譜面を見てみたが、確かにこの部分、金管楽器にはアクセントの指示があった。しかしここまで極端とも言える表現は聴いたことが無くとても印象に残った。全体的に打楽器群の主張は激しく不気味ささえ伝わるが、ここはまさにそういう音楽であり、音楽の大きさを再認識した。そして第5楽章では、第4楽章と同じことが言える。2階に設置された鐘は金属的な響きではなく、柔らかい、しかし上品な音色で鳴り響いたが、それに反して、打楽器群は相変わらずの主張で音楽が良い意味で荒々しく恐怖感を伴ってくる。特に185小節からの大太鼓のmfの無視は、アントンKとしてはグッドな表現であり、当然今まで聴いたことが無く唖然とさせられたのだ。以降、Fgの雄弁さにも目を見張るが、第363小節からコーダまでの下りは、この楽曲に相応しく聴衆も完全に打ちのめされた雰囲気になっていた。Hrのsfを確認してからの必要以上のppによる緊張感、そしてその後のアクセル全開によって興奮をあおられ、第414小節からの金管楽器に負けじとも劣らない、打楽器群の最強奏にはアントンKも完全降伏した。
このところ新日本フィルを聴いているが、今回の演奏に触れてみると、一段と新しい色彩が加わり、また新たな発見ができたような気がしている。これは、もちろん指揮者上岡敏之の音楽性によるものだろうが、実はそれを一番理解しまとめ上げているコンマスの崔文洙氏のご尽力だろうと理解している。本番中に上岡氏とアイコンタクトを何度も交わして、良い物を作り上げようとする謙虚な誇りのようなものをアントンKは聴いていていつも感じるからである。来シーズンもプログラムが決まり、アントンKも予定を組んでいるところだが、こんな演奏を聴いてしまうと、もう今から次の演奏会が待ち遠しくて仕方がないのである。
新日本フィルハーモニー交響楽団 RUBY
リクエストコンサート
パガニーニ ヴァイオリン協奏曲第1番 P6
ベルリオーズ 幻想交響曲 OP14
アンコール
バッハ パルティータ第2番 サラバンド
リスト ハンガリー狂詩曲第2番 G.359-2
2017年7月22日 すみだトリフォニーホール