今日は7月9日。大好きだった指揮者朝比奈隆のお誕生日に当たる。
朝比奈隆がご存命なら111歳という年齢。亡くなってからいつの間にか随分と時間が経ってしまった。ちょうど世界的指揮者カラヤンと同じ年齢の朝比奈だったが、ご存知のように朝比奈隆は、カラヤンより遥かに長生きをして舞台に立ち、我々ファンに多くの感動を与え続けてくれた。今のクラシック音楽好きなアントンKがあるのは、朝比奈に出会ったからと言っても過言ではない。初めての出会いは、忘れもしない1978年3月の新日本フィルの定期。ブルックナーの第5交響曲を文化会館で鑑賞した。とにかく、それまでのブルックナーのイメージが払拭され、アントンKにとって開眼した演奏会となったのだった。それ以来、大阪フィル東京公演には欠かさず足を運び、東京のオーケストラを振る際も時間の許す限り全て聴いてきた。
晩年、世界最長老指揮者などと持てはやされ、変に人気が出てしまいチケットが取りづらくなったが、亡くなる年の2001年まで、「いわゆる追っかけ」が続いていた。最後の演奏会は2001年9月に大阪ザ・シンフォニーホールで鑑賞したブルックナー第9交響曲。その後の10月名古屋で演奏されたチャイコフスキーは、行けず仕舞いに終わった。そしてこの年の年末、フェスティバルホールでの恒例の第九の演奏会を前に天国へと旅立ってしまったのだ。自宅でそのチケットを握りながら大泣きしてしまったことが昨日のように思い出される。
こうして今朝比奈隆を想うと、延べにしてたった23年間しか鑑賞できなかったが、あそこまで気持ちの入った大きな音楽に出会う機会が減ってしまったことに寂しさを覚える。かろうじて朝比奈の音楽は、数多くの録音やビデオでその一端を聴くことが出来るが、実演奏は、その何倍もエネルギーを感じることができたのだ。アントンK自身は、晩年の演奏より、どちらかと言えば出会った頃の武骨で朝比奈節丸出しの演奏を好むが、また聴いてみたいと思う反面、人の心もよりデジタル化してしまった現代において、自分自身が昔のように感動できるのか、いくばくの不安が過るのである。
掲載するのは、大阪フィル東京公演終演後の1コマ。1996年は背後の2台のハープを見てもおわかりのようにブルックナーの第8交響曲だった。朝比奈隆の演奏会では恒例になってしまったカーテンコールに応える指揮者朝比奈隆。晩年には、観客の方が無暗にエキサイトしていた場面にも多々出くわしたが、アントンKは、演奏もさることながら朝比奈の舞台姿にとても感動したもの。オーケストラメンバーは誰一人いないにもかかわらず、聴衆に向かって直立不動、一人一人と目を合わせ、小さくうなずきながら声援に応えていた。その姿はいつも大きく感じて、心が熱くなり生きる勇気を享受できたのだ。
今晩は、朝比奈隆の誕生日ということで、思い出深いブルックナーの第3を鑑賞しようと思う。それまでエーザー版に固執していた朝比奈だったが、ここへ来て第三稿を振った感慨深い演奏。自分にとっては聴きづらいオーチャードホールに2日続けて足を運び演奏を堪能した遠い日。ここでも新日本フィルが熱演をして朝比奈に応えている。