今月からいよいよ新シーズンが始まった新日本フィルの定期演奏会。同じプログラムを場所を変えて2回演奏するスタイルは今までと同じだ。注目している指揮者、演奏者が好きな楽曲を続けて2回も演奏するとなれば、何をおいても駆け付けたくなり、それがアントンKの生きている証となる。
今回は、シューベルトの第4交響曲、ブルックナーの第7交響曲というプログラムであり、シーズンを通して全曲を取り上げるというシューベルトと、シーズンごとに積み重ねているブルックナーという、今後のシーズンを占う上でも重要な演奏会だった。幸いにも2度足を運ぶことが出来たアントンKだが、総じて印象的だったことは、指揮者とオーケストラの幅が狭まり、意思疎通がさらにスムーズだったように感じられた。相変わらず、指揮者上岡敏之氏の求める音色は今までよりもさらに細かく、音楽の、いや小節の個々に至るまで緻密に表現されていて、我々聴き手側も油断は出来ない。それがシューベルトにおける速いパッセージであったり、やさしい歌であったり、ブルックナーにおける響きのバランス感覚であったりと、楽曲全てにおいて行き届いているのだ。
このブログでも、上岡氏のブルックナーについて何度も触れてきたが、今回は第7交響曲について書き留めておきたい。上岡氏のブルックナー演奏は、これまで第3、第6、第9と新日本フィル。第7をウッパタール響で聴くことが出来た。第4についてはCD録音のみで、これで実演では2度目の第7ということになる。これまで上岡氏のブルックナー演奏に接するにあたり、アントンKが感じたことは、楽曲を作曲の背景、その時代までをとことん読み込み、演奏に加味して自分流のスタイルを築き上げているということ。ブルックナーには多種の版が存在しているから、なおさら勉強を重ねてきたことがわかる。しかし、時に改訂版から付け加えて補強している演奏もあったが、ここまでやってしまうと、本質から離れていくように思えてならないのだ。長年好きで聴いてきたブルックナーだから、四の五の言わず好きには違いないが、演奏の優劣を考えると想いも変わってくるのである。
しかし今回の第7交響曲については、かなり伝統的な(この表現が正しいかどうかはわからないが)演奏スタイルになっていたと思われた。ハース版使用と、今回はプログラムに明記されていたが、実際はかなりノヴァーク版からの手入れが散見できたと思っている。それは、第1楽章のコーダの速度感であったり、アダージョ楽章の頂点でのティンパニの追加、そしてアダージョ終結部における弦楽器のピッチカートの位置。またフィナーレ主題のアコーギクなどが思い当たる。しかし今回の演奏においては、そんな細かいことは大して問題にならず、どこをとってもハーモニーの美しさやオケ声部のバランス感覚は、近年稀にみる響きだった。昔、チェリビダッケがこの第7をサントリーホールで演奏した時、オーケストラの各パートの響きが全て聴き取れ、絶句した想いを思い出してしまった。どんなに音楽が大きく膨れ上がっても、譜面の音符一つ一つが見渡せるような響きなのである。だから、そこここに新たな発見があり、新鮮さとともに深く音楽にのめり込むことが出来たのだった。ウッパタール響との演奏は、演奏時間が長かったことが話題にもなったが、今回は時空を超えた世界観を持ち、あっという間70分間だったのである。
新日本フィルの演奏者たちに目を移せば、いつものことながら木管楽器群は抒情的で素晴らしく、ブルックナーの素朴さが感じられ嬉しくなった。金管楽器に関しても、いつもは誇張を嫌う指揮者上岡氏だったが、アダージョ楽章の頂点までの登坂でのTpの表情や、フィナーレ楽章の第3主題のHrnの後拍による絶叫は印象的で、上岡氏の新たな気持ちを垣間見た気分だ。そして一番感動したのは、弦楽器群による意味のある主張で、これには毎度のことながら、コンサートマスターである崔文洙氏のご尽力の賜物に違いない。聴こえないくらいのピアニッシモから、弓を持つ手が速さで見えないくらいのトレモロまで、ダイナミックレンジの音幅は限界をゆうに超えている。しかもアダージョ楽章のテーマでは、すすり泣くような深い憂いに満ちた音色で聴衆に迫り、スケルツォでは、伴奏であるはずの弦楽器が、指揮者の要求通りに、あの下降音形をマルカートで明確に弾き切り、その立体感は未体験ゾーンだったのだ。この辺のコンマス崔氏の弾きっぷりは、感情をあらわにしてオケ全体をけん引していたのだった。大きな身体がエキサイトしてさらに艶っぽい音色が発せられる時、アントンKはいつも勇気を頂いているのである。演奏中、ほんの一瞬でもそんな場面に出くわしたのなら、アントンKにとって至福を味わえる一瞬になる。辛い事の方が多い日常で、その一瞬を思い出すことで、次に進めるような気がしているのだ。演奏を通して多々心を頂いている気持ちになるのである。
感動的な演奏にまだ心が興奮している。聴き終わっても、またすぐに聴きたくなるのがブルックナーの音楽だ。こんな素晴らしい音楽を届けてくれた尊敬すべきプレーヤー達に感謝したい。そしてブルックナーよ、永遠に・・・
新日本フィルハーモニー交響楽団 定演ジェイド
9月5日 サントリーホール
新日本フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会 サファイア
9月8日 横浜みなとみらいホール
シューベルト 交響曲第4番 ハ短調 D417「悲劇的」
ブルックナー 交響曲第7番 ホ長調 (ハース版)
指揮 上岡 敏之
コンマス 崔 文洙