見覚えのある音楽家たちの顔が舞台に並んでいる。今回は、いつも音楽を通して「心」を頂いているヴァイオリニストの崔文洙氏プロデュースによる室内楽の演奏会に出向いてきた。
長年アントンKの趣味の一つは、音楽鑑賞だが、今までの大部分は、クラシック音楽の鑑賞が中心にあった。それも交響曲や管弦楽曲などの大編成で構成された楽曲ばかり。学生時代は、クラシック音楽とともに、日本の流行歌やビートルズに代表される海外の楽曲、そして末にはハードロックまで聴くようになり、来日の際はライブ会場へと押し掛けたものだが、今やそれら楽曲は、時代とともに自分の心の奥へと埋没してしまい、やはり本命のクラシック音楽に落ち着いている状況だ。3年前の大フィル演奏会で、たまたま出演していたコンマスとしての崔氏の圧倒的なパフォーマンスと芸術性に心を奪われ、それ以来彼の虜になっているアントンKだが、こうして彼の奏でる音楽を鑑賞することで、自然と自分自身の中にも、今までにない新しい発見、そして新たな分野への挑戦のきっかけとなる。ここ数年で、随分と鑑賞レパートリー、それに鑑賞のポイントにも変化が現れたと思っている。だからアントンK自身も、このところ演奏会が楽しくて仕方がないのだ。
崔氏の演奏は、人間の喜怒哀楽の感情が凝縮されているような、音色の中には聴こえていない「気」のようなものが存在している。それは彼の培ってきた奏法からくるものなのか、よくわからないが、数々の演奏体験をされてきた中から、生み出されたものなのかもしれない。こんな駄文では語りつくせず、理解するには実際に実演に触れて頂くほかないのだ。
今回は、室内楽曲の鑑賞ということで、いつもよりカブリ付きで体験させて頂いたが、彼の演奏中、アントンKは発せられる音色に全身が包み込まれ、音楽の洞窟に吸い寄せられる感覚に陥った。前半、後半とも崔氏の思い入れのある楽曲が並ぶが、一度演奏中、感情のスイッチが入ると、そのオーラは会場を満たし、その「気」が他の演奏者にまで届き、とてつもない大きさとなり、ドラマティックな演奏に変わっていくのがわかった。
フランクは有名なシンフォニーくらい、ショーソンに至っては、よく聴いたことがなかったアントンKだが、今回の演奏会をきっかけとした一夜漬けもあまり役立たずだったかもしれない。どんな楽曲かはわかったとしても、崔氏とその仲間たちとの一期一会の音楽は、アントンKに勇気と情熱を享受し、途中で感情を抑えきれなくなったのだから・・
オーケストラの演奏会は、演奏者よりも指揮者の解釈により内容は大きく左右し、演奏の好みも千差万別になる。今回のような少人数の室内楽は、音楽を通してより個々の演奏家の生きざまに触れることが今更ながら分かった。譜面に向かうプレーヤー達の真剣な眼差しのカッコ良かったこと!音を楽しんでこそ音楽だし、本物の演奏家であり芸術家なのだろう。ここまでまとめ上げた崔氏自身こそ、ヴィルトゥオーゾそのものなのである。
新日本フィルハーモニー交響楽団 室内楽シリーズ
ヴィルトゥオーゾへささげるオマージュ~プロデュース 崔 文洙
フランク ピアノ五重奏曲 ヘ短調 M.7
ショーソン ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲ニ長調 OP21
アンコール
フランク ヴァイオリンソナタ 終楽章
ショーソン ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲より第4楽章
Vn 崔 文洙
Vn ビルマン聡平
Vn 宗田 勇司
Vla 脇屋 冴子
Vc 長谷川 章子
Piano 野田 清隆
2019年10月9日 すみだトリフォニーホール 小ホール