アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

的を得た井上道義氏の演奏~ショスタコーヴィチ

2021-07-10 20:00:26 | 音楽/芸術

井上道義氏のショスタコーヴィチを聴きに行ってきた。マエストロ井上氏のショスタコーヴィチと言えば、もうずいぶん前から定評があり、アントンKも過去に何度か鑑賞する機会を持つことが出来、どれも素晴らしい内容だったと振り返ることができる。ちょうど昔で言うところの朝比奈のベートーヴェンやブルックナー演奏とでも言い換えられるか。常に自信に満ち、独自性があり、何を言いたいのか聴衆にはっきりと投げ掛けてくる演奏なのである。

今回のプログラムは、前半にジャズ組曲という楽しい楽曲を演奏し、そして後半は第8交響曲という重厚な楽曲が演奏された。どちらも中々実演奏では出会えない楽曲だが、今回の鑑賞を機会に、このショスタコーヴィチという作曲家を手元にいつも置いておきたくなるくらい、この作曲家についてもっと知りたくなってしまったのだ。

メインである第8番の交響曲は、第7と並び戦争交響曲と呼ばれているが、アントンKには、今回初体験となり、同じ大戦中に書かれた楽曲でも、外面的な第7に対し第8は、内省的で心の奥底にまで入り込んでくるような深い音楽であったように思える。もちろん打楽器が爆発するような場面もショスタコーヴィチには欠かせないが、今の世相ともどこか重なって、アントンKにはとても厳しい音楽に聴こえてしまった。しかし最後には穏やかに静かにこの楽曲は閉じられ、どこか熱いものが身体中を巡って不思議な感覚になってしまったことを記述しておきたい。

マエストロ井上氏の自信に満ちた指揮振りは流石で、声こそ上げないが、楽譜を全て知り尽くしているような変幻自在な音楽表現を求め、そして自身もその表情に終始していた印象を持った。そしてそんな井上氏に果敢に挑んだ、オーケストラのどのパートも素晴らしいと感じた。今回もコンマスは崔文洙氏だが、マエストロの意向をここまで完璧にまとめ上げ、そして本番に向けてより気持ちを高みに持っていく精神性は本当に素晴らしい。これだけの大きなオケをまとめる力とは、最終的には人間性なのだと思わされるのである。指揮者ご自身が難曲と語っていたが、オケの各パートの構成は複雑であり、楽器の種類も多様、そしてソロパートは絶えず散見出来き、緊張と集中の連続であるはずの奏者も、どこか演奏を楽しみ楽曲を愛でているような雰囲気が伝わり、そんな一瞬の場面に興奮を覚えたのである。

最後の掲載写真は、アーカイブからのコピーだが、終演後のマエストロ井上の何とも満足気な表情が印象的だったので載せておきたい。ショスタコの総譜に手を置き、何やら唱えていたようだったが、ご本人曰く、この新日本フィルには特別な想いをお持ちなのだろうということが、演奏や表情からもはっきり解った気がしている。今後もこのペアの演奏に注目していかなければならない。オケの音色も、コロナ以前よりも変化してきているように感じている。抑制が抜け、緻密で開放的な音色が聴けるようになったと思えるのだ。

新日本フィル交響楽団 定期演奏会ジェイド

ショスタコーヴィチ   ジャズ組曲第2番より

             1.行進曲

             5.リリック・ワルツ

             6.小さなポルカ

             7.ワルツ第2番

             2.   ダンス第1番

ショスタコーヴィチ   交響曲第8番 ハ短調  OP65

指揮      井上 道義

コンマス    崔 文洙

2021年7月3日  東京赤坂:サントリーホール