足場工事の施工はとび職人が高い足場の上で作業する。
とび職人の賃金は危険手当的なものも付加されるから普通の土木労務者よりも高い。しかし、高所作業は誰にでも出来るわけではないから、とび職人として一人前になるためには若い頃からそれなりの修業が必要である。
会社には20名ほどのとび職人が在籍しているが、それでもまだ人員不足の様相である。そこで、材料置き場の整理や運搬など、とび職人でなくても出来る仕事をしてもらうために、資材置き場要員としてハローワークへ募集を出した。
最近ではハローワークの登録と同時にウエブサイトでも紹介されるので、直ぐに反応があった。
(その1)
55歳の男性。
市内の自宅に住むが、女房、子供がいないため一人暮らしである。材木の運搬などをしていたと言うのだが、面接の結果、不採用にした。理由は、身寄りのない人の場合、何かあった場合に困るからである。履歴書の筆跡が震えていたので手が震えるのかと訊いたら、ボールペンのつきが悪かったのでなぞって書いたのだと言い訳していたが、震えた筆跡となぞって二重になったのとは明らかに違うのである。55歳という割には印象が老けていて腰が曲がっているのも採用に踏み切れない理由であった。
(その2)
51歳の男性。長身。側頭部に円形脱毛症。
市内の自宅に住むが不動産は夫人名義とのこと。
エクステリア関係の商売を自営しているが、業績不振のところへもってきて不渡り手形を喰らったために、アルバイトで働きたいという。面接に来たときスーツを着てネクタイを結んでいた。
結果は不採用である。勤務時間について、土曜日には絶対休むが日曜日には働きたいなどと自分の都合で主張していた。
プライドがあって、やる気があるのなら自分の商売でもう一度がんばったらどうかと言ってやった。20歳~30歳の若い職人に交じって、これまでスーツを着ていた人が働くのにはちょっと無理がある。
(その3)
55歳の男性。住所不定。主な職歴はパチンコ店店員。県西部の出身だが故郷の実兄とは絶縁関係にある。
一月ほど前までは、どこかの派遣会社の宿舎にいたそうであるが、失業してからはネットカフェで暮らしていたという。
ネットカフェは1泊1800円だそうだ。失業保険の給付金は月に9万円だったそうである。どう考えても食費が足りないのではないかと訊ねたら、もう3日ほどほとんど食餌を摂っていないという。所持金は無一文でバス賃もなかったため、1時間ほど歩いて面接に来たという。
仕方がないので事務所にあったカップヌードルを食わせてやったら実に美味そうに平らげた。
今夜泊るところもないということだったから、働く気があるんだったら会社の宿舎へ泊めてやるといったら、是非お願いしますということになった。
前科・前歴には特に拘らないが、宿舎では共同生活になるから、自分の物と他人の物の区別を厳格にすることなどと、ありきたりの注意を与えて宿舎へ収容した。色々な人間の中には手癖の悪い者もいるので油断は出来ない。採用に当たっては警察の指名手配などにも日頃から注意をしている。
この男”カトちゃん”は下着のほかには”着たきり雀”の様相で寝具なども無いから、私の布団やタオルケットを一式呉れてやった。
兎に角、シャワーを浴びて身体を流さないことには臭くて敵わない。
ハローワークへは採用ということで連絡したら喜んでいた。前の二人は失業保険を受給していないが、この人”カトちゃん”は小額であっても失業保険を貰っていたからハローワークも助かるということなのだろう。
この種の流れ者的人間は義理人情の感覚が薄く、あまり当てにはならないが”猫の手”と思って使えばそれなりに役に立つと思う。喩えに”枯れ木も山の賑わい”という。
とび職人の賃金は危険手当的なものも付加されるから普通の土木労務者よりも高い。しかし、高所作業は誰にでも出来るわけではないから、とび職人として一人前になるためには若い頃からそれなりの修業が必要である。
会社には20名ほどのとび職人が在籍しているが、それでもまだ人員不足の様相である。そこで、材料置き場の整理や運搬など、とび職人でなくても出来る仕事をしてもらうために、資材置き場要員としてハローワークへ募集を出した。
最近ではハローワークの登録と同時にウエブサイトでも紹介されるので、直ぐに反応があった。
(その1)
55歳の男性。
市内の自宅に住むが、女房、子供がいないため一人暮らしである。材木の運搬などをしていたと言うのだが、面接の結果、不採用にした。理由は、身寄りのない人の場合、何かあった場合に困るからである。履歴書の筆跡が震えていたので手が震えるのかと訊いたら、ボールペンのつきが悪かったのでなぞって書いたのだと言い訳していたが、震えた筆跡となぞって二重になったのとは明らかに違うのである。55歳という割には印象が老けていて腰が曲がっているのも採用に踏み切れない理由であった。
(その2)
51歳の男性。長身。側頭部に円形脱毛症。
市内の自宅に住むが不動産は夫人名義とのこと。
エクステリア関係の商売を自営しているが、業績不振のところへもってきて不渡り手形を喰らったために、アルバイトで働きたいという。面接に来たときスーツを着てネクタイを結んでいた。
結果は不採用である。勤務時間について、土曜日には絶対休むが日曜日には働きたいなどと自分の都合で主張していた。
プライドがあって、やる気があるのなら自分の商売でもう一度がんばったらどうかと言ってやった。20歳~30歳の若い職人に交じって、これまでスーツを着ていた人が働くのにはちょっと無理がある。
(その3)
55歳の男性。住所不定。主な職歴はパチンコ店店員。県西部の出身だが故郷の実兄とは絶縁関係にある。
一月ほど前までは、どこかの派遣会社の宿舎にいたそうであるが、失業してからはネットカフェで暮らしていたという。
ネットカフェは1泊1800円だそうだ。失業保険の給付金は月に9万円だったそうである。どう考えても食費が足りないのではないかと訊ねたら、もう3日ほどほとんど食餌を摂っていないという。所持金は無一文でバス賃もなかったため、1時間ほど歩いて面接に来たという。
仕方がないので事務所にあったカップヌードルを食わせてやったら実に美味そうに平らげた。
今夜泊るところもないということだったから、働く気があるんだったら会社の宿舎へ泊めてやるといったら、是非お願いしますということになった。
前科・前歴には特に拘らないが、宿舎では共同生活になるから、自分の物と他人の物の区別を厳格にすることなどと、ありきたりの注意を与えて宿舎へ収容した。色々な人間の中には手癖の悪い者もいるので油断は出来ない。採用に当たっては警察の指名手配などにも日頃から注意をしている。
この男”カトちゃん”は下着のほかには”着たきり雀”の様相で寝具なども無いから、私の布団やタオルケットを一式呉れてやった。
兎に角、シャワーを浴びて身体を流さないことには臭くて敵わない。
ハローワークへは採用ということで連絡したら喜んでいた。前の二人は失業保険を受給していないが、この人”カトちゃん”は小額であっても失業保険を貰っていたからハローワークも助かるということなのだろう。
この種の流れ者的人間は義理人情の感覚が薄く、あまり当てにはならないが”猫の手”と思って使えばそれなりに役に立つと思う。喩えに”枯れ木も山の賑わい”という。