京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

鍔の美-名品鑑賞 (1)

2018年05月02日 | 文化


鍔の美-名品鑑賞  (1)


  鍔は刀の防具であるが、風景や動物植物を図柄として、平面に一つの世界を切り出している。庵主は長年、鍔の鑑賞を趣味として多数の作品をみてきたが、ここでは蘭亭コレクションの中のいくつかの名品をシリーズで紹介したい。      


              図1. 鍔の各部の名称

 

 鍔を鑑賞するためには、各部の名称を記憶しておくことが肝要なので図1を参考にしていただきたい。まず鍔の外周部を「耳」という。これは鍔と外の世界を隔絶する境界で、その形の良し悪しが作品の評価を左右する。耳の形としては丸耳、角耳、打ち返し耳、土手耳などがある。鍔を扱う際には真っ先に指で耳に触れるので、その触感も大事である。名品は、接触面からおのずとその歴史が伝わってくる。さらに鍔の金属部分の実質が「地」である。大部分の鍔の地は鉄でできているが、銅、金、銅と銀の合金(四分一)、真鍮などが使われているものもある。地は、透かし、象嵌(ぞうがん)、彫金など様々に加工され、その出来栄えが重要とされる。鍔にはいくつか穴が開けられている。刀の茎(なかご)を通す茎(中心)穴である。これの上下には刀の動きを防ぐために責金(せきがね)がはめ込まれている。他に半月形の笄櫃(こうがいびつ)と州浜形の小柄櫃(こずかびつ)の穴がある。笄は髪を掻き揚げて髷を形作る装飾的な結髪用具である。良質な鍔はこれらの穴がバランス良く配置されている。茎穴の周囲の地の部分が切羽台で、古い鍔にはこの部分に切羽の跡が残っているが、明治以降に作られた新鍔には見当らないので鑑定の目安になる。 



 

              写真1.「桜花透し甲冑師鍔」鎌倉~南北朝時代

  写真(1)これは鎌倉時代から南北朝にかけて造られた甲冑師(かっちゅうし)鍔と呼ばれる古い鍔である。甲冑を作る金工が余技で製作したものと言われる。鍔は薄手で、耳をわずかに打ち返し、地には阿弥陀鑢(あみだやすり)をかけている。左に櫃穴が見られるが、後代(おそらく江戸期)になって開けられたものである。小透しの桜花をいくつか切ってある。甲冑師鍔では、桜以外に梅花、桔梗、蜻蛉などの文様を切ったものや、文字を刻んだものが見られる。透かしの技法はまだ稚拙で技巧らしい技巧のない作りは、強靭さを旨とした頃のものであるが、こういった素朴なデザインはむしろ現代の感覚に合っている。この鍔は時代が古く、表面に朽ちこみ(腐食跡)が見られるが、鉄の鍛えはまことに良い。


     

 

               写真2.「葡萄透し鍔」江戸中期

  写真(2)丸型鉄地の丁寧な透(すか)し鍔である。厚手の地肌を掘り下げて文様を高彫にする鋤出彫(すきだしぼり)によって、葡萄の房や葉が立体的に表現されている。日本の野生のノブドウは冷涼な気候を好み東北地方に多く、岩手ではこれでワインを醸造し販売している。ポリフェノールが多く独特の味がするといわれている。西日本の平地ではノブドウはあまり見かけないが、高地に生えている。この鍔は無銘で箱書きもないので、作者はわからないが江戸時代の正阿弥伝兵衛を頭とした秋田正阿弥派の作風によく似ている。筆者が最も愛好するコレクションの一つである(楽蜂)。

 

 

 

 


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