乱れていないベットにもたれかかり、カーペットの上でブランケットに包まっていた。体温をブランケットが保護し、自分自身の体温で急に冷え込んできた夜を、そのままやり過ごそうとしていた。ベットに入り込んだら、夢を見そうな気がした。夢の中で、あの人に逢いそうな、逢えそうな気がした。それが怖くて、この冬一番の冷え込みなのに、ベットの中には入り込めないでいた。夢の中でも、もしも逢ってしまったとしたら、今の私は身体さえも消し去ってしまいそうな気がしてた。
引き込まれそうになる睡魔に、半分だけ素直になりながら、残りの半分でその睡魔に戦いを挑んでいる。眠れない夜が更けていく。
レースのカーテン越しに、月を眺める。綺麗な青い光を、ベールをかけて覗きながら。時折、雲間に隠れる月の光。その度に短く訪れる闇。
『あなたの今日が始まる。私の今日は終わらない。』
眠ることのできない時間を、刻む時の音だけを数えながらやり過ごしていく。もう来ることがないのではないかと、明日がくるのを疑いかける残される今日の時間。
冷静さをたもつには、あまりにも酷な長い一日だった。絡みつく柵を切に断ち切りたいと、神に願わずにはいられなかった。心が壊れなかったことが、周りの誰もをひどく傷つけることがなく、それを悟られることもなく、今日が終わりかけることが、不思議に思える。割れてしまった心の殻から、床にぶちまけられたその中身を、言葉にしたとしたら、取り返しのつかないことになった。言葉を声にすることを忘れようとした。少なくとも、ぶちまけてしまった中身を、拾い集めヒビだらけの殻にほんの少しでも戻せるその時までは。
気が付くと、音を殺して嗚咽していた。泣かない・・・泣かない・・・今だけは、今はまだ、意地でも泣かない。呪文を唱えるように、心の中で繰り返す。繰り返す声にしない言葉とは裏腹に、割れてしまった殻にたまることはないのだと、その水はとどめもなく流れ落ちる。
明日は来ないと、終わらないはずの私の今日が終わろうとしていた。
ブランケットに包まりながら、いつもの私の今日の時間がそろそろ始まろうとしていた。アラームを止めたばかりの携帯をにぎり絞めたまま。
手の中でまた震える携帯。アラームを止め忘れたのだろうか。開いた携帯画面に、メールの送信者の写真が出ている。一瞬の戸惑い。しばらく返信はなかった。忙しく日を送っていることはわかっていた。それだけで十分。いつも何かを思う度に、そこに何かを伝えたいだけなのだから。伝えたい想いを短いメールに託すとき、私はその人の名前を呼びかける。呼び名ではない、その人が生まれ持った名前を呼びかける。もう一人の自分、本当の顔を忘れないでいて欲しい。互いに意識してではなく、本能で覗きあってしまった顔。もう一人の自分を演じながら、向き合う中で互いを理解していきたい。
自分自身と重ねながら、その人を思う日々がある。そして、そこで踏ん張るその人を想うことで、私は自分を失わないでいられた。想いを一気にもっていける場所ではない。レースのカーテン越しに、部屋の中から青い月を眺めるように、ベールをかけた想いを短く届ける。
『届くメールに、冷静さを保ちながら・・・』
あぁ、言葉にならないものが心を解していく。何度も何度も、戻ったメールを読み返す。短い文面に、詰め込まれた答え。戸惑いを迷いは月を隠すことをやめた雲とともに消えていった。
割れた殻は二度と修復することはできないが、ほっこりと冷え切った空気を皮膚で感じながら、私の体の芯で小さく灯るものが生まれた。
言葉にすることを忘れたものは、もうそのまま忘れてしまおう。昨日は終り、来ないはずの明日が、今日になったのだから。
まだ闇を湛えた窓の外。届けた人の今日はそろそろ終り、私の今日が始まろうとしている。
fin.
引き込まれそうになる睡魔に、半分だけ素直になりながら、残りの半分でその睡魔に戦いを挑んでいる。眠れない夜が更けていく。
レースのカーテン越しに、月を眺める。綺麗な青い光を、ベールをかけて覗きながら。時折、雲間に隠れる月の光。その度に短く訪れる闇。
『あなたの今日が始まる。私の今日は終わらない。』
眠ることのできない時間を、刻む時の音だけを数えながらやり過ごしていく。もう来ることがないのではないかと、明日がくるのを疑いかける残される今日の時間。
冷静さをたもつには、あまりにも酷な長い一日だった。絡みつく柵を切に断ち切りたいと、神に願わずにはいられなかった。心が壊れなかったことが、周りの誰もをひどく傷つけることがなく、それを悟られることもなく、今日が終わりかけることが、不思議に思える。割れてしまった心の殻から、床にぶちまけられたその中身を、言葉にしたとしたら、取り返しのつかないことになった。言葉を声にすることを忘れようとした。少なくとも、ぶちまけてしまった中身を、拾い集めヒビだらけの殻にほんの少しでも戻せるその時までは。
気が付くと、音を殺して嗚咽していた。泣かない・・・泣かない・・・今だけは、今はまだ、意地でも泣かない。呪文を唱えるように、心の中で繰り返す。繰り返す声にしない言葉とは裏腹に、割れてしまった殻にたまることはないのだと、その水はとどめもなく流れ落ちる。
明日は来ないと、終わらないはずの私の今日が終わろうとしていた。
ブランケットに包まりながら、いつもの私の今日の時間がそろそろ始まろうとしていた。アラームを止めたばかりの携帯をにぎり絞めたまま。
手の中でまた震える携帯。アラームを止め忘れたのだろうか。開いた携帯画面に、メールの送信者の写真が出ている。一瞬の戸惑い。しばらく返信はなかった。忙しく日を送っていることはわかっていた。それだけで十分。いつも何かを思う度に、そこに何かを伝えたいだけなのだから。伝えたい想いを短いメールに託すとき、私はその人の名前を呼びかける。呼び名ではない、その人が生まれ持った名前を呼びかける。もう一人の自分、本当の顔を忘れないでいて欲しい。互いに意識してではなく、本能で覗きあってしまった顔。もう一人の自分を演じながら、向き合う中で互いを理解していきたい。
自分自身と重ねながら、その人を思う日々がある。そして、そこで踏ん張るその人を想うことで、私は自分を失わないでいられた。想いを一気にもっていける場所ではない。レースのカーテン越しに、部屋の中から青い月を眺めるように、ベールをかけた想いを短く届ける。
『届くメールに、冷静さを保ちながら・・・』
あぁ、言葉にならないものが心を解していく。何度も何度も、戻ったメールを読み返す。短い文面に、詰め込まれた答え。戸惑いを迷いは月を隠すことをやめた雲とともに消えていった。
割れた殻は二度と修復することはできないが、ほっこりと冷え切った空気を皮膚で感じながら、私の体の芯で小さく灯るものが生まれた。
言葉にすることを忘れたものは、もうそのまま忘れてしまおう。昨日は終り、来ないはずの明日が、今日になったのだから。
まだ闇を湛えた窓の外。届けた人の今日はそろそろ終り、私の今日が始まろうとしている。
fin.
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