今年のノーベル生理学・医学賞は、「成熟した細胞に対してリプログラミングにより多能性(分化万能性、pluripotent)を持たせられることの発見」でケンブリッジ大学のジョン・ガードン教授と京都大学の山中伸弥教授の共同受賞となりました。山中教授がマウスの皮膚細胞に4つの遺伝子を加えることで、他の様々な細胞に分化できる 多能性を持たせたのがまさにiPS(人工多能性幹細胞、induced pluripotent stem)細胞です。人工的に作成したという意味をあえてinduced(誘導された)という英単語を当てはめたのは、発見当時流行していた iPodにあやかって世界中に広まって欲しいという思いからの命名であったようです。
再生医療はまさに様々な可能性を持った未来の分野です。iPS細胞の登場以前は、研究の中心であったES細胞(胚性幹細胞)に関しては、韓国も次世代技術と指定して国を挙げた支援が行われました。その為2000年代初めまで世界でも最先端の技術を誇り、ノーベル賞にもあと一歩という国民の期待が高まる中、一連の捏造疑惑が浮上しで一気に停滞してしまいました。他者のヒトの受精卵を壊すことで得られるES細胞と異なり生命倫理的な問題や拒絶反応の点で有利なiPS細胞にも癌化の可能性をはじめ安全性や、別の意味での倫理問題など実際の臨床的な実用化にはまだまだ多くの壁があるのも事実です。通常 ノーベル賞受賞者が対象となる研究を発表してから受賞するまでは早くて10数年、40年以上たってからというのも珍しくありません。科学の基礎的な研究が受賞の対象になることが多いため、その成果が検証され、様々な分野で実際に応用されるまで時間がかかるためでしょう。それらに比べると山中教授は発表からわずか6年での受賞はかなり異例といえます。それだけに受賞によって全世界で研究が加速され一日でも早く臨床利用につなげようという期待の大きさが表れているとも考えられます。
「まだ一人の患者も救っていません。」「まだ仕事は終わっていません。来週からまた研究に専念したい。」受賞直後の会見での山中教授の言葉からは、受賞の喜びよりこれから圧し掛かる責任の重さを誰よりも感じているようでした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます