今やエンターテインメントの世界では、一つのジャンルとして確立した韓流コンテンツ。ネットによる動画配信サービスの拡大に伴い、ドラマ分野でも世界的な評価を受ける作品も登場してきた。記憶に新しいところで大ブーム巻き起こした「イカゲーム」は、今年度米国エミー賞6部門での受賞が伝えらたが、そもそも非英語圏のドラマがノミネートされる事自体が初である。社会現象まで起こした「イカゲーム」のような爆発的なインパクトはないが、この夏に配信され、韓国は勿論、世界各国で話題のドラマがある。天才的な記憶力と思考力を持つ自閉症スペクトラム症の新米弁護士の成長を描いたヒューマンコメディー「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」だ。
「自閉症」という言葉はよく耳にしても「自閉症スペクトラム症」は余り聞きなれない表現だろう。‘スペクトラム’とは分光器で光を波長ごとに分解し並べたものを差すが、この場合、色の濃淡がグラデーションで変化していく帯をイメージして欲しい。精神医学で定義する「自閉症スペクトラム症」も症状の軽いものから重い(明確な)ものまで、一連の流れを集合体として捉えた意味として、そこに属する病名である。この枠組みで、さらに個々の患者によって症状の程度、パターン、知的レベルや言語能力などの特徴が異なることを考慮し細かく分類、診断する。その中には映画「レインマン」の主人公のような「アスペルガー障害」「サヴァン症候群」と呼ばれ、得意の分野で天才性を示す人々も存在する。基本的に「自閉症スペクトラム症」の患者の特徴として、「社会的コミュニケーションの障害、対人的情緒関係の欠如」や「限定された興味」などから相手を理解し、人間関係を維持、発展させることが困難とされる。
ドラマの主人公ウ・ヨンウ弁護士も、ソウル大学法学部、法学大学院を首席で卒業し、司法試験もほぼ満点で合格する能力の持ち主である反面、相手の気持ちを察し理解することが苦手、笑う、怒る、悲しむなどの表現も頭で記憶し練習しないと難しい。また、食事も正確に並べられたキムパプ(韓国海苔巻き)しか食べられず、音や新しい空間(部屋やエレベーター)に対する過敏性、イルカやクジラへの異常な執着や興味など「自閉症スペクトラム症」の診断基準に適合する女性である。しかし彼女は、シングルファザーである父親の献身的で深い愛情のもと、障害を持ちながらも純粋な心と才能を開花、超一流の法律事務所でキャリアをスタートする(実はこれも訳ありだが・・・)。物語は毎回、ウ・ヨンウ弁護士(パク・ウンビン)が担当する裁判をめぐって、彼女をできる限り理解し、サポートするシニア弁護士チョン・ミソク(カン・ギヨン)、や友人のチェ弁護士、そしてお互いが強く惹かれ合っていく事務のイ・ジュノ(カン・テオ)、更にはヨンウの待遇や能力に嫉妬し貶めようと謀るクォン弁護士たちを中心に展開していく。案件も夫婦のDV、宗教法人の観光収入権利、過度な受験教育、知的障碍者の性被害、地方開発、兄弟間の相続権そして、主人公とは全く異なり家庭内に引き籠り社会活動が困難な自閉症スペクトラム症患者の障害事件など様々な社旗問題を扱う。裁判の行方は、ウ・ヨンウ弁護士の天才的閃きで暫し解決の糸口が見出されるのだが、必ずしもハッピーエンドではない。だが、それが彼女自身の人間的成長に重要であることをドラマが進むごとに視聴者は追従することになる。
弱者と強者、少数派と多数派という社会における恒久的テーマが韓国でも存在する。脚本を書いた82年生まれの女性作家ムン・ジウォンは「ウ・ヨンウは周囲が配慮と譲障害を持つ弱者であるが、同時にいくら努力しても追いつけない強者でもある。そして周囲の人物は複雑だ。それゆえ作家自身の考えを伝えるのでなく、伝えないように警戒する。」この言葉に秀悦な脚本と台詞が生まれた理由が少し垣間みえる。