‘衣食住’とは人が生活するのに大切なものを示した表現ですが、年齢とともにその中でどれに最も重きを置くかは変わっていくような気がします。若いうちはまず食から始まり、衣そして住というようにです。戦後 高度成長期には政府の住宅政策もあり、「男が家庭を持てば一国一城の主となって初めて一人前」という価値観が形成され、‘住宅ローン’というものを生み出し庶民に組ませ、マイホーム主義を広めていきました。人々は我が家を手に入れた満足感のもと、数十年間のローンを払い続けることに特に疑問を感じることはなく、その返済のため懸命に働きました。いつかは賃貸と違ってやがては自分の城=財産になることに大きな意義を感じて。 しかし、それもあくまで「土地は決して値下がりしない」という土地神話がバブルの崩壊とともにはじけるまででした。
韓国でも近年この不動産神話崩壊が現実味を帯びてきました。韓国で不動産といえば、一戸建てよりマンションが中心ですが、マイホーム感覚以上に投資や財テクの手段としてマンションを購入する傾向があります。また、韓国独自の「伝貰(チョンセ)」という住宅賃貸制度があり、家主にある程度の額の伝貰金を預ければ、家主はその運営益を家賃代わりにするため月々の家賃などは発生しない仕組みになっています。借主にとっては、お金を預けておくだけでマンションに住むことができ、出るときは全額返還されるわけですから、魅力的な制度です。しかし、不動産を住居より将来への投資と考えれば、マンションを購入するとき初めから、借主を入れて伝貰金を預かり、その額と自分の資金を合わせて購入することで、少ない自己負担で事実上マンションが手に入るためそれなりの意味があります。しかし、やはりこれも「不動産価格は必ず上昇する」という前提があって存続できる制度です。韓国の不動産神話の崩壊は、家計資産の8割近くを不動産で持つ所有者側だけでなく、伝貰制度が成り立たなく影響で、家を持たない側にも大きな問題になるだけより深刻だともいえます。
戦後から十数年前まで、マイホームは幸福な家族の団欒を象徴する大きな道具でした。しかし、全員で一緒に食事をとらない家庭も増え、また携帯電話やネット、コンビニの普及で生活や個々の家族の在り方自体が明らかに変化してきた現代。家を所有する必要性や意義ももう一度考える機会なのかもしれません。