気づけば12月に入り、今年もあと2週間余りとなりました。クリニックは、正月の休みを利用して年末に治療を考えている患者さんのため、大晦日の午後まで診療をしています。それでも、大学病院や総合病院に勤務していた頃は、大晦日から元旦に当直したり、緊急で呼ばれたりということも珍しくなかったため、年末ぎりぎりまで働くことは特に違和感はありません。例年 大晦日の診療を終え帰宅し、夜に蕎麦を家族で唼食べる段になって、漸く一念が無事に過ぎたことを実感するものです。私としては伝統的なおせち料理にはそれほど馴染みがないせいか、むしろこの年越しそばが年末年始を告げる意味合いが濃いかも知れません。
そばは細く長いということから、新年も長寿と身代が細く長く続くよう願って年越しそばを食すと一般的に考えられていますが、その他にも「金銀細工師が散らかった金粉を集めるのにそば粉を使うために、金を集める縁起で始まったという説」「鎌倉時代、博多の貿易商で宗人・謝国明が年の瀬に蕎麦掻きをふるまったところ貧しい人達にも翌年から運が向いてきたことからという説」「室町時代、関東三長者の一人が大晦日に無事息災を祝って家人と共にそばがきを食べた」など諸説はありますが、確実ではありません。韓国でもそば粉を使った麺は多くあります。よく知られた冷麺もその一つですが、そば粉の他に緑豆粉やジャガイモ、トウモロコシなどのデンプンを使っている為、非常にこしが強く、切れにくいという特徴でしょうか。日本の蕎麦に近いものなら、ソバの産地である江原道の郷土料理で、特に春川(チュンチョン)地方のマッククスが浮かびます。ククスは麺のことですが、「マッ」というのは作り立てをすぐ茹でて食べることから「今すぐに(マッ)」という意味か、野菜、たまご、海苔など何でも混ぜてまるで麺のビビンパ風に「好きなように、むやみに、どんなでも(マッ)」食べられるという意味かこれも定かではありません。
縄文時代にはすでに日本で栽培されていたというそば。寒冷地や荒地でも育つため、韓国でも飢餓で食糧が不足する時代に救荒作物として貴重な存在でした。韓日両国の庶民にとって贅沢はできずとも、まさに有難い食べ物だといえるでしょう。