アフガニスタンという国を私たちはどのくらい知っているだろうか。人口約4千万、国土は日本の1.8倍と言えば、決して小国ではない。しかし、中央アジアと南アジアの交差点に位置する地理的要因もあってか、古くはアレキサンダー大王のマケドニア王国、チンギスハンのモンゴル帝国など、強大な周囲諸国の支配や影響を受け現代に至るまで不安定な国政と貧困に喘いでいる。18世紀以降は部族間で王が交代する首長国として存在するも、19世紀に入ると中央アジアを巡る英露の覇権争い、いわゆる‘グレートゲーム’の抗争地として保護国という曖昧な立場に。1926年イギリスから正式にアフガニスタ王国として独立するが、第二次大戦下再び諸外国の影響下で混乱する。戦後冷戦の中、クーデターにより共和制となるが、当時の軍事政権はソ連の支援のもとイスラム教徒を弾圧したことから、再び内乱となりソ連の侵攻が始まる。聖戦(ジハード)の名のもと、イスラム教徒達が立ち上がりソ連との10年に及ぶ戦闘を繰り広げ、撤退に追い込んだ。その中心となったのが、タリバン(神学生たち)などの宗教派閥の集団である。当時は冷戦下でソ連に対抗すべく、彼らに対して欧米や西側諸国も様々な支援を行った。シルベスター・スタローン主演の「ランボー3 怒りのアフガン(1988)」は、まさにランボーがイスラム戦士と一緒に、悪のソ連兵を完膚なきまで叩きのめし撤退させるハリウッド的な勧善懲悪ものだった。しかし、彼らタリバンがアフガニスタンを実行支配した現在は、今度はアメリカにとって脅威となっているのが現実である。ソ連の撤退後もタリバンを中心とする全体主義的な政権下でも内乱は続き、2001年アメリカ軍が侵攻し彼らは一時的には政権から排除され暫定政府が樹立する。この時、アメリカの要請で韓国政府も医療支援、海空輸送支援団、建設工兵支援団として部隊を派遣した。映画の題材となった、2007年の韓国人23名の拉致事件もこの様な背景の中で起きた出来事である。
今回の作品「極限境界線 救出までの18日間(原題 交渉)」は、この拉致事件に関わった交渉人の苦悩と命がけの行動を中心に描いた物語だ。外交や国益よりも人質の安全と救出を最優先に考える交渉人にキャスティングされたのは、今最も旬の二人、ファン・ジョンミンとヒョンビン。それだけでも映画への期待度は高まるが、実際 韓国では上映と同時にNo1ヒットを記録した。あらすじは、アフガニスタンの砂漠で韓国人キリスト教徒23名がタリバンに拉致され、駐屯中の韓国軍の撤退と現政権に収監されているタリバン戦士の釈放を要求してきた。人質殺害までのタイムリミットは24時間。急遽韓国政府は外交部のチョン・ジェホ(ファン・ジョンミン)室長を現地に送り対応させる。テロには一切屈しないと明言するアフガニスタン外交通商部は囚人の釈放には応じない。また韓国政府も米軍との足並みを崩すことは出来ないことから、韓国軍の撤退は困難であると伝える。一方、国家情報院でパキスタンで活動していたパク・デシク(ヒョンビン)工作員も、独自のルートを使って人質解放の道を探っていた。二人は異なる価値観や手段用いて解決を図ろうと対立もするが、人命救出への熱意から協力して立ち向かう。しかし万策尽きようとした彼らは、最後に命懸けの賭けに出るが・・・。緊迫の駆け引きと展開に加え、見ごたえのあるアクション満載の大作である。
実際に事件が起きた当時、人質なったキリスト教徒たちが政府の中止要請にも応じず危険地域へ渡航し、かつ異なる信仰を持つ国への短期布教目的であったことから、彼らへの批判もあった。今回に限らず同様のケースで身代金や外交的譲歩等の国の対応に対し、個人の「自己責任論」として問題視する声も巻き起こる。「外交部の最重要使命の一つが国民を守ることではないか」と主人公が外交部長菅にあえて反論させた意図は、この様な論調への一つの意見であろう。