美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

「市民捜査官ドッキ」映画評

2024-12-19 14:35:15 | Weblog

振り込め詐欺、いわゆる‘オレオレ詐欺’と言う単語が使われ始めたのは2000年代初期くらいではないか。しばらく疎遠であった息子や孫からの電話を装い、窮状を訴えて金銭を要求する特殊詐欺を意味する。親子の扶養意識やお互いの依存性が比較的強いアジア諸国中心で、子供も早くから独立心を育ませる欧米では少ないと言われる、同様の犯罪自体は世界中で起きているようだ。その呼び名もアメリカでは孫を騙って高齢者を狙う「Grandparents Scam」(祖父母詐欺)、スイスでも同様の「Enkeltrick」(孫騙し)と高齢者を狙うスタイル。一方、治安のあまり宜しくないブラジルでは「お前の息子を誘拐した。殺されたくなければ1時間以内に指定の金額を振り込め」という切迫した内容もあり、お国事情により様々だ。そして韓国においては、オレオレ詐欺に対し、「ボイスフィッシング」(Voice Phishing)という用語が使われる。“声(Voice)で個人情報(Private data)を釣る(Fishing)”を意味する造語であり、高齢者より一般市民をターゲットにした振り込み詐欺が多いと言われる。さらに特徴として、子供や孫など身内を騙るものより、融資や貸出、様々な投資話を餌にするものが圧倒的に多い。その点は、日本より家族関係が密であり、怪しげな電話の声だけでは騙され難いが、儲け話やお金に絡んだ内容には安易に乗ってしまう傾向が高いと言う解釈も出来る。それ故か、投資、融資関係の詐欺であるだけに被害額も日本の約300億に対して2倍以上、6~700億円以上と言われる。

このように深刻な社会問題の一つになっている振り込め詐欺=ボイスフィッシングだが、近年 映画やドラマの題材としても取り上げられる。2021年に制作された「声/姿なき犯罪者(日本上映2022)」は元警官の被害者であったのに対し、今回紹介する作品「市民捜査官ドッキ」は、2016年に起きた実際の事件をモチーフに、子供の為に懸命に生きる一市民、シングルマザーのドッキが極悪詐欺集団に立ち向かった39日間の物語である。クリーニング店が火災になりお金を必要としていたドッキ(ラ・ミラン)に、銀行のソン代理を名乗る人物(コンミョン)から融資商品を紹介したいとの電話がくる。融資に必要だからと手数料を請求され、たびたび送金に応じてしまったドッキ。すべてが振り込め詐欺であり全財産を失い子供たちと路頭に迷うなか、再びソン代理から電話がかかってきた。今度はドッキに詐欺組織の情報提供をする代わりに助けを求めてきたのだ。警察もまともに相手にしてくれない状況で、騙された悔しさと奪われたお金も取り戻したい一心で、職場の同僚たちと共に犯罪集団のアジト 中国・青島(チンタオ)へと向かう。平凡な市民、それも女手一人で子育てし日々の生活に精一杯の中年女性が犯罪組織を追い詰める話は、サスペンスというより現実離れしたコメディーに近い話になりかねない。しかし、一人一人は小さな存在でありながら、強い絆と勇気と行動力で、時に笑いを誘いながらも切迫した緊張感で最後まで飽きさせない展開は、優れた脚本と登場人物たちの個性豊かな演技力のお陰だろう。特に、主演のラ・ミランの存在感はピカイチである。

世界の犯罪率統計(ICPO調査)をみると、ほとんどの国で犯罪件数が最も多いのは「窃盗」であるが、韓国と中東、南米の2~3国のみ「詐欺」がトップであった。治安も良く、経済的にも先進国の水準の韓国が、OECD諸国でも詐欺犯罪率で群を抜いている。激しい競争の中、富や地位、その他利益を得るためには、多少の嘘やごまかし、相手を騙す事も厭わない感覚が社会の中にあるとしたら、一度考慮してみるべきだろう。

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