私の個人的な感想ではあるが、日本のドラマ、映画のテーマは家族や恋人、友人をはじめ、学校や職場などの身近な人間関係を中心に、そこでの起きる出来事や事件、心の葛藤が描かれた内容が多い印象がある。一方、韓国映画、ドラマは、時代ものは勿論、恋愛、サスペンス、アクションであれ、実際の歴史事実や事件、社会問題が背景になり、それが観る人々の今の生活や現状にも関係し共感できる事が求められる。その点、政治と権力、金に関わるシナリオは最も好まれる題材の一つだ。「韓国人は政治好き」という評価がよく聞かれる。日本でよく問題視される「政治への無関心」「若者の政治離れ」とは一見対照的だ。それは選挙における投票率の低さ、特に若者を中心とする「誰になっても社会は変わらない」と感じる為だろうか。しかし、議員内閣制で一党がほぼ政権を持ち続けている日本に比べ、アメリカ同様、直接選挙による大統領制であり、かつ2大政党が交互に政権を担って来た韓国の政治体制では、好き嫌い以前に選挙の結果によって、個々の生活が180度変わり得る。政権が変わることによる外交政策は勿論、社会経済政策、例えば不動産取引や税金関係、融資の内容、更には官庁や自治体、公共機関、公立大学、新聞、テレビなどの幹部人事にまで影響が及ぶ。それ故、人が集まれば自然と政治の話題が出るのも当然と言えば当然。また、政治の中でも、理想的な指導者、政治家像、正しい民主主義に対する強い想いが韓国社会にはあるように思う。軍事政権から民衆の力で勝ち取った民主的政治という気持ちが強いだけに、政治や権力の影の部分がテーマに取り上げられやすい理由かも知れない。
今回紹介する映画「対外秘」は、まさに政治の裏の裏、90年代の国会議員選挙を巡って企てられた、駆け引き、工作、裏切り、暴力と悪の部分をすべてさらけ出した政治サスペンス作品である。キャストは、イ・ウォンテ監督がこの映画の完成に最も重要であった配役と話した熟練の俳優イ・ソンミン、善悪どちらでも演じ切るチョ・ジヌン、役柄に合わせて千の顔を持つと言われるキム・ムヨルの3人を中心に、他の俳優陣も納得の演技を魅せる。舞台は1992年、釜山。党の公認候補を約束されたヘウン(チョ・ジヌン)は、国会議員選挙への出馬を決意する。ところが、陰で国をも動かす黒幕のスンテ(イ・ソンミン)、公認候補を自分の言いなりになる男に変える。激怒したヘウンは、スンテが富と権力を意のままにするために作成した〈極秘文書〉を手に入れ、チームを組んだギャングのピルド(キム・ムヨル)から選挙資金を得て無所属で出馬する。地元の人々からの絶大な人気を誇るヘウンは圧倒的有利に見えたが、スンテが戦慄の裏工作を仕掛ける。買収、脅迫、裏切り合いが繰り広げられるなか、この選挙は、国を揺るがすさらなる権力闘争に進展していく。最後まで結末の読めないスリリングな展開は、韓国初登場No1を記録し、世界の映画祭で高い評価を受けたというのも納得の作品である。
当時の時代背景や社会を取り巻く環境は別として、この映画はあくまでもフィクションである。韓国では以前より「ファクション」という言葉が使われている。ファクト(fact)とフィクション(fiction)を合わせた造語だが、史実や実際に起きた事件を映画化するときに、自然と監督の意図が反映された結果でもある。過去ハリウッドでも度々あったように、映画は時にプロパガンダとして利用される。だからこそ映画は映画として楽しみ、歴史的な事象は自ら知り考えることだ。一方、韓国映画に加えられるフィクションは、社会変化や現状に対する切実な要望や理想への想いが凝縮された部分でもあり、そこが人々を引き付ける魅力である事も間違いない。