平成23年度の医師国家試験合格者が発表されました。今年の合格者は、昨年より148名多い、7686名でした。お隣、韓国はというと、年間4150人の医師・漢方医師(韓医師)が輩出されていますから、人口比から見れば、日本より医師数の増加率は高いと言えます。しかし、人口千人あたりの医者の数は、OEC諸国中、日本が下から5番目、韓国は下から3番目と最下位圏に位置しています。(2009年統計)医学教育や医療制度でも類似点が多い両国ですが、医師不足などの問題点も共通のものがあります。これだけ多くの医師が毎年輩出されているのにも関わらず、医師の数が足りないことで‘医療崩壊の危機’とまで言われているのは何故でしょうか。
韓国も日本も大都市圏は病院、クリニックは不足どころか飽和状態といっても良いくらいです。問題は、地域的な格差と診療科での医師の偏在にあります。人口が多く、インフラが整備された都市に比べ、過疎化が進んだ地方に医師が集まりにくいのは、日本や韓国だけではなく多くの国が昔から抱えている課題です。一方、外科、産婦人科、小児科など、研修や仕事がハードで、且つリスクが高いと考えて、それらの科を志す若い医師が減少している診療科の偏在は、今後より深刻な問題となりえます。産婦人科や小児科でも、特に出産に関与する医師たちは、少子化、夜昼関係ない診療体制、医療訴訟の増加などで、現役の専門医の中でも、お産を扱わなくなったケースも増えています。それでも、危機感を持った医療機関や教育現場の努力で、ここ数年はかろうじて減少に歯止めがかかっています。外科医の方は、財政的に医療費削減を求められる中、現状の保険点数では、実際にかかる診療費を賄えず、手術をすればするほど病院は赤字が増えるといった声が聞かれるなど、今の保険制度全体を考えずには、医師の努力や志だけでは解決できません。実際、十数年前に大学からの派遣で形成外科医長として働いていた地方の病院も、私が退職した数年後に経営上の改革で一般外科を廃止しました。
それでも大学受験での医学部人気は、日本、韓国ともに全く衰えません。医師という職業は勿論やりがいのあるものではありますが、偏差値が高いからと目指す今の風潮もどうかと考えます。医者の掲示板サイトであった話を紹介します。「研修医の一人に中卒で理容師になってから一念発起して大検、国立大医学部を出たヒトがいました。利発な女性であるとき病棟で時間が空いたからと身寄りのないお年寄りの 髪を切ってあげていました。私はそのとき本当に観音さまを見た気分でした。心の中で手を合わせました。」外科医の始まりは、理髪師が起源だといいますから、彼女はきっとすばらしい外科医になるでしょう。