「若さは若者に与えるにはもったいない」とは風刺家として知られるアイルランド出身のノーベル文学賞作家のバーナード・ショーの言葉です。多くの若者は青春という掛け替えのない瞬間を、短慮と経験不足から無駄に浪費している事にたいしての皮肉と、経験は十分でも、情熱や体力、純真さを失った老人たちの若さへの嫉妬心が込められています。しかし、人生の後半になってもう一度10代をやり直せといわれたら、是非!と答えるか、少し躊躇するかは人それぞれでしょう。
70歳になって、青春の1ページを彩る‘初恋’を経験できたら・・・韓国映画「チャンス商会」は、そんな淡い恋と家族の愛情、そして韓国に限らず高齢化が進む今の社会が抱える現実をテーマにした物語です。主人公のキム・ソンチル爺さんは、長年チャンススーパーで働く頑固者店員。地域の再開発計画が進む中、チャンス商会の社長をはじめ、地元の住民の説得にも一人首を振らずに古い一軒家で一人暮らしを続けてきました。ある日迎えの家に花屋を開業した女主人(イム・グンニム)が娘、孫と共に引っ越してきます。何かと気にかけ心遣いをしてくれるグンニムにいつしか惹かれるようになるソンチル爺さんは、社長や周囲の人々から恋の手ほどきを受け初デート。徐々に二人の距離は近づいていきますが、やがて隠された真実があきらかになります。登場人物は皆心優しく、最後のどんでん返し?はあっても若干出来すぎ感は否めませんが、そこは「シュリ」「ブラザーフッド」、そしてオダギリジョー、チャン・ドンゴン共演で話題となった「マイウェイ 1200キロの真実」など数々の話題作を手掛けたカン・ジェギュ監督の手腕と老年カップルを演じるパク・クニョン、ユン・ヨジョンをはじめ、韓国俳優陣の演技力で最後まで持って行かれました。(恥ずかしながら鬼の目に涙・・)しかし、韓国社会の現実、未来は決して感動的とは言えません。国連の資料から2050年に予測される超高齢化国として、日本次いで2位、さらに世界の高齢者の生活環境を調査しているNPO機関「ヘルプエイジ・インターナショナル」による「高齢者が住みやすい国ランキング」ではアジア諸国の中では最下位、全体96か国中60位とかなり厳しい結果でした。
この映画「チャンス商会」の別題は「Salut d'Amour(愛の挨拶)」。イギリスの作曲家エルガーの楽曲にも同名のものがありますが、関連はわかりません。ただ無名時代のエルガーが周囲の反対を押し切って、年齢の差、宗教の違い、陸軍少将の娘という身分違いの女性アリスとの婚約記念に贈った曲として知られています。愛があれば年齢やその他の障害も乗り越えられるという意味が込められた題名かと勝手に想像してみました。