美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

「高速道路家族」映画評 

2023-04-25 11:32:03 | Weblog

本作品を観て映画「パラサイト 半地下の家族」(2019)を思い浮かべる人も少なくないだろう。「パラサイト」は言わずもがな、非英語作品初のアカデミー作品賞獲得、さらにカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールも同時受賞という韓国映画に輝かしい歴史を刻んだ作品である。制作、指揮したポン・ジュノ監督が当初の「内容が余りに韓国的で、世界では十分に理解されないだろう。」という憂慮は見事に裏切られる。そのテーマに関して世界のメディアは「多くの国における普遍的な格差の問題を描いた作品」と評価した。しかし、私はこの作品こそ、韓国的な家族愛、時に苦しいほどの肉親に対する執着心を描いた映画であり、今回の紹介する「高速道路家族」にも同じ何か痛々しい愛憎の匂いを感じる。 

先日、日本政府が異次元の少子化対策案を発表した。日本に限らず近年、アフリカと一部の中東国を除いて世界的な少子化傾向は確実に早まっている。特に先進諸国、中でも2022年度の韓国の合計特殊出生率0.78という値は衝撃的である。韓国で少子化が叫ばれてから過去16年間、日本円で27兆という巨額な対策費が投じられて来た。しかし、歯止めがかかるどころか7年連続で過去最低値を更新し続けている。人類文化史から考えても、ある程度成熟した国での少子高齢化はやむを得ないとしても、韓国の極端な少子化への説明は簡単ではない。よく言われる、競争社会における子供への教育の必要性と、それに対応すべく親の重圧、負担が挙げられてきた。だが、それ以前に若者の未婚、晩婚問題がより深刻ではないか。そこには‘家族’そのものの在り方や意義という、儒教思想をもとに培われてきた社会全体に対する反動が隠されているかも知れない。 

映画「高速道路家族」は、メガホンをとったイ・サンムン監督にとって初の長編映画作品である。アジアで新人監督の登竜門ともいえる釜山国際映画祭(2022)で「『パラサイト 半地下の家族』に次ぐ大傑作!」「ユーモア、サスペンス、アクション…映画のすべてが詰まった傑作」と称賛され、見事なデビューとなった。ストーリーは、仲良くヒッチハイク?をしている家族の様子で始まる。実はギウ(チョン・イル)ジスク(キム・スルギ)夫婦と幼い姉弟の4人家族は、高速道路のサービスエリアを渡り歩きながらのあてもないテント暮らしをしている。身づくろいは駐車場のトイレで、食事代は見知らぬドライバーに、財布を忘れたと嘘を言い2万ウォンを借りて?済ませる生活。ジスクは母親として、子供の将来への不安を感じながらも、ささやかな今の家族の絆だけを思い生きていた。しかし、ある日別のサービスエリアでお金を借りたヨンソン(ラ・ミラン)と再遭遇し警察に通報されてしまう。ギウは逮捕され、行き場を失った母子3人をヨンソンは連れて帰り、面倒を見る。我が子を亡くしたヨンソンにも、埋められない心の穴があったのだ。しかし、不思議な縁からの新しい家族を得た彼女らの前に、留置所を抜け出したギウが現れる・・・。大胆な家族の設定と人間像、そして後半は進むほど一気にサスペンス調に変わっていく展開に最後まで目が離せない。 

韓国はいま少子化どころか、結婚さえ選択しない若者が急上している。つまり自ら求める‘家族’の必要性、意味自体が問われているのかも知れない。一方、映画やドラマの世界では夫婦、親子の絆をテーマにしたものが未だ多い。そこでは主人公や登場人物たちが、家族を守り、愛情を取り戻すために自らを犠牲に命懸けで奮闘する。時に方法や手段は、無謀で非合法的で、周囲の人々や第三者を傷つけることも厭わない。‘家族’同様必ず取り上げられる‘社会悪や権力者の不条理’に立ち向かう弱者側のヒーロ―の活躍がそうであるように、現実には困難であるからこそ観客はカタルシスを感じる。家族の絆や愛情も、映画やドラマ内だけで描かれるメルヘンの世界にならないかとちょっぴり不安に駆られた。 



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