海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

書評:李静和編『残傷の音 『アジア・政治・アート」の未来へ』(岩波書店)

2009-08-19 15:43:47 | 読書/書評
 【書評】2009年8月7日付「沖縄タイムス」掲載

 六十四年目の沖縄戦慰霊の日が終わり、一週間後には、石川ジェット機墜落事故から五十年の追悼式が行われた。半世紀以上の時がたっても、戦争と米軍が引き起こした事故による犠牲は、体験者に過ぎ去らない過去として、生々しい記憶を呼び起こしている。
 沖縄戦と米軍基地。あるいは、日本の侵略、植民地支配と十五年戦争がもたらした傷として、いくつもの分断線によって引き裂かれているアジアの状況。それらに対し、アーティストたちはどう向かい合い、表現していったか。
 本書は「アジア・政治・アート」という主題と向き合った八名のアーティスト、呉夏枝、山城知佳子、金城満、宮城明、北島角子、イトー・ターリ、琴仙姫、高橋愁治による表現と、それに応答して書かれた評論をまとめたものである。
 いずれの表現・評論も、戦争の記憶をあつかうことが同時に、現在も生起し続ける政治的暴力の問題へとつながり、あるいはその逆となって往還する。
 強制連行された朝鮮人の骨が埋まっている嘉手納飛行場の滑走路。そこから飛び立つジェット戦闘機が引き起こす新たな死。北朝鮮の脅威が煽られることでチマチョゴリを着た女子学生に加えられる暴力。それは従軍慰安婦たちの声をもかき消していく。
 戦争によって殺されていった者たちの声が、現在も日々生起する暴力によって沈黙を強いられている者たちの声と重なり合う。そのかそけき声(音)に耳を傾け、アートによって伝えようとするいとなみと、それを受け止め、過去と現在の戦争と暴力、アジアにおける分断の問題を考えていくいとなみ。その成果が本書である。
 丸木位里、丸木俊の「沖縄戦の図」に高橋愁治、琴仙姫が音をのせた「残傷の音」やアーティストたちが自らの作品や制作状況を語ったインタビュー、イトー・ターリのパフォーマンス、発表場所となった佐喜眞美術館の紹介を収めたDVDが付録としてついている。一八〇分の見応えのある内容で、貴重な記録ともなっている。
 
 

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