産経ニュース より
昨年12月に誕生した自民党政権は、東日本大震災以降、民主党政権が打ち出した「原発ゼロ」政策の見直しを表明した。昨年10月の鹿児島県薩摩川 内市長選で、反原発候補を大きく突き放して再選を果たした岩切秀雄市長(70)は「川内原発の再稼働に自信持って取り組める」と語り、国のエネルギー政策に大きな期待を示した。
福島第1原発の4基の事故により、国内の原発54基がすべてダメだという評価を多くの国民から受けてしまいまし た。でも、原発を停止させたまま電力の安定供給を続けるのは現実的に難しい。エネルギー政策は日本経済の浮沈に直結するだけに、厳格な安全基準をクリアす れば、国の責任で再稼働を決めるべきです。その考えは一貫して変わっていません。
市長選の相手候補の主張は「脱原発、即廃炉」。私は公開討論会などで「再稼働は必要だ」との自分の考えをきちんと説明しました。得票でいえば10人のうち8人に支持していただいたわけですから、川内原発1、2 号機の再稼働に向けて自信を持って取り組める投票結果だと受け止めています。
原子力規制委員会による安全性の判断も、川内原発はクリアで きるのではないでしょうか。過去に大きな津波被害にあったこともなく、敷地も海抜13メートルと高い。福島第1原発のように大津波で電源を喪失するような 事態にはならないでしょう。立地的に南海トラフ地震の影響も少ないのです。
安倍晋三首相や茂木敏充経産相は再稼働を容認する発言をされています。首相らは信念を持って発言されたと信じているし、今後もブレずに前に進めてほしい。大いに期待しています。
民主党政権時代は、閣僚らの発言が頻繁に変わったり食い違ったりしました。私たち立地自治体としては、何を信じて原発問題を考えればいいのか戸惑いました。
平成22年に同意表明した川内原発3号機の増設については震災後、「コメントできる状況にない」と申し上げてきました。国のエネルギー計画の行方が見えない中で、まずは既存の1、2号機の再稼働を優先すべきだと考えたからです。
民主党は、既存の原発について「完成から40年たった古い原発は廃炉」の方針を打ち出しました。自民党がそれを踏襲するなら川内1、2号機は残り十数年。他の国内の原発も相次いで姿を消すことになります。
それまでの間に、再生可能エネルギーが原発の代替を担えるほどに急速に発達し、電力を安定、大量、安価に供給できるようになれば一番よいことです。しかし、実際に電力需要を満たすことは難しいはずです。
古い原発をなくし再生可能エネルギーもそれに代われないなら、安全な原発の新増設を考える必要がある。しかし、まだ国のエネルギー計画は不透明。だから3号機増設についてコメントできる時期ではないのです。
原発は電力の安定供給だけでなく、雇用も担っています。薩摩川内市でも原発や関連産業で働いている住民は大勢いますが、一昨年9月までに1、2号機が停止し、市民生活に影響が広がっています。
原発の定期検査の臨時作業員を受け入れてきた宿泊業や飲食業、運輸業、小売業は非常に厳しく、市として緊急経済対策で支援しています。大規模な倒産などは出ていませんが、あと数年この状態が続いたらどうなるか…。市には太陽光発電所もできましたが、雇用はそれほど期待できません。本市の友好都市である韓国・昌寧郡ではあちこちに工業団地が造成され、日本企業がどんどん進出しています。土地代、人件費に加え、電気料金が安いからですよ。
原発反対派は「子供たちのために将来に原発を残すな」と言います。しかし、原発ゼロで電気料金が値上げされ、企業が海外に逃げれば、子供たちが将来働く場所はなくなってしまいます。もしかしたら数十年後、外国に出稼ぎしなければならない時代がくる。それが「子供のたちのため」なのでしょうか。
今後、再生可能エネルギーは間違いなく導入が進むでしょう。薩摩川内市には原発と火力発電所があり、これに再生可能エネルギーをミックスした「基幹エネルギーのまち」を作る構想を震災以前から練っています。現在、専門家で構成する「次世代エネルギービジョン策定委員会」で議論が進められています。夢のような話ですが、将来は市内の電気需要を賄い、市民の電気代をタダにしたい、企業誘致も進めたい、というのが市のエネルギー政策です。
国のエネルギー政策も、電力の安定供給だけでなく地球温暖化や雇用創出、少子高齢化などを総合的に考えて決めてもらえるものと期待しています。(田中一世)
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岩切秀雄(いわきり・ひでお) 昭和17年生まれ。38年から旧川内市役所に勤務し、法政大学の通信教育課程を卒業。同市企画財政部長、助役、平成16年 に町村合併で誕生した薩摩川内市の副市長を歴任した。平成20年の市長選で初当選。24年10月の市長選は4倍以上の得票で反原発候補を破り再選を果たし た。