仕掛人が幸福実現党であることを知らない海外経済評論家の意見です。
(2013年1月19/20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 日本が再び重要な国になっている。実に二十数年ぶりのことだ。
1990年代に入った頃の東京には世界最大の株式市場があり、日本の銀行や輸出業者、不動産開発業者は世界を支配していた。
それ以降、多くの投資家に関する限りは、すさまじい下落相場のせいで日本はどうでもいい存在になっていった。
ここ数年、日本の名前が出てくるのは注意が喚起される時だけになっていた。日本の教訓は、デフレが定着し、金融政策が効果を発揮しなくなり、銀行がゾンビになった時にどんなことが起こり得るかを教えてくれる。
実際、2008年の信用危機以降、欧米の中央銀行は日本の二の舞いになるのを必死になって避けようとしてきた。 投資家に見放されていた日本市場が一変 周期的に反騰局面が訪れては終わっていった。日経平均株価(225種)はどん底の水準に比べれば2倍近くに上昇しているものの、まだバブル後の最高値を 55%下回っている。過去50年間の平均値をも下回っており、東京の金融サービス業界の就業者数は20年前の半分以下に落ち込んでいる。
ところが過去2カ月の間に突然、日本株は一斉に買われるようになった。日経平均は15%上昇し、円も米ドルで同じくらい安くなった。今では、確実に弱気だった評論家たちが日本にわくわくするような光景を見いだしており、市場には資金が流れ込んでいる。
これにはきっかけがあった。先月の総選挙の後、首相が安倍晋三氏に交代したのだ。安倍氏は、経済を再生させて公共投資などケインズ型の大規模な景気刺激策によりこれを上向かせると公約しており、日銀にも大胆な金融政策を新たに講じるよう求めている。
日本の金利はもう10年以上底ばいを続けているが、金融政策は見かけほど緩和的ではなかった。デフレが進行しているため、名目金利がゼロ%でも実質金利はまだプラスなのだ。
米国や英国の中央銀行はこのところ、名目金利をインフレ率よりもかなり低い水準に抑えている。もし日銀が、インフレ率を2%に押し上げるという目標を自らに課していることを公に認め、かつそれを達成できれば、その影響はかなり大きなものとなり得る。 楽観論が出てくる理由はほかにもある。外国人投資家は日本にずっと否定的な目を向けてきたため、日本への投資額もかなり少なめになっている。
ゴールドマン・サックスによれば、外国人投資家が日本に投じているのは投資資金全体の15.6%に過ぎず、株価指数から示唆される標準値(19.6%)を下回る。日本への投資比率をこのベンチマーク並みにするだけでも、600億ドルの資金を新たに流入させる必要があるのだ。 また日本国内には、投資されるのを待っている資金がそれよりも多く存在する。アーカス・インベストメントのピーター・タスカ氏によれば、日本の年金基金は運用資産の12%しか株式に振り向けていない。また、家計の資産の55%は現金で保有されている。
さらに言えば、日本株は割安に見える。ロンドン在勤のアナリスト、アンドリュー・スミザーズ氏によれば、日本企業の利益は大きく変動するが、これはかなり大きな減価償却累計額を調整した上で見なければならない。減価償却は利益水準を押し下げるからだ。 同氏はこの点を、減価償却前の利益を使ってPER(株価収益率)を計算することで修正しているという。日本と米国のPERは2011年3月には同じだったが、減価償却前の段階のPERで見ると日本株(金融機関を除く)は米国株よりも42%割安だったという。しかも、米国株はこの後上昇しているが、日本株は逆に下落している。 日本株に付きまとう政治リスク では、日本株にリスクはないのか? 答えは「ある」だ。そしてその大部分は政治家に由来する。まず、安倍首相が公約を実行できない恐れがある。
ゴールドマン・サックスのグロース・マーケッツ担当チーフストラテジスト、クリストファー・オーヤン氏は日本株の売りを推奨している。同氏に言わせれば、この戦術の唯一のリスクは「日本人がこれまで一度もやっていないことを本当にやり遂げること」だという。
デフレはすっかり定着しており、すぐには終わりそうにない。消費者物価指数(食料とエネルギーを除く総合指数)は1997年以降ずっと低下している。日本が長期的に必要としているのは、競争力を高める(そして物価の下落に対抗する)ための構造改革だ。安倍氏にそれが成し遂げられるか否かはまだ定かでない。 また、外国の政治家が円安に待ったをかける恐れもある。円がここ数週間で急落したことを受け、「通貨戦争」の議論が再び始まっている。
もし円がさらに安くなれば、世界の通貨切り下げ競争がさらに激しくなって再び円高になることもあり得る。
あるいは、米国や欧州で警戒感が再び強まって相場が円高方向に押し戻される可能性もあるだろう。
もしそうなれば状況は深刻だ。日本経済は輸出に非常に左右されやすいため、円相場と株式市場はほとんど正比例の関係にある。実際、1月16日に円高に振れた時には日経平均が2.5%下落した。円相場が反発したらどうなるかを、前もって示してくれた格好だ。 円安傾向は本当に続くか? ドル相場はもう何年間も人為的に押し下げられているのだから、対ドルで円が安くなる余地は十分にある――。これこそ、現在の株価上昇は持続し得ると期待される最大の理由だ。しかし、いろいろな通貨との為替レートをそれぞれの貿易量で加重平均して計算する実効為替レートで見ると、既に円は過去20年間で最も安い水準に接近しつつある。
日本株に注意すべき理由はもう1つある。政策による株価押し上げ効果はもう実現してしまった可能性があるのだ。非常に急激な値上がりだっただけに、投資家はここでいったん手を休め、安倍氏が公約を本当に実行するかどうかを見極めようとするかもしれない。
とはいえ、無差別な下落相場がこれほど長く続いたことから、市場には掘り出し物も残っている。また、大きく下げてきたおかげで日本株は安全性が高い。日本株の下落余地はほかのどの市場の株よりもはるかに小さいということだ。
我先にと買いに走るのは時期尚早だろう。しかし、日本なんてどうでもいいという時代は終わった。 By John Authers