180409 種の保存法 <絶滅危惧種 「センザンコウ」剥製出品 容疑の社長送検>を読みながら
70年代から90年代にかけて、自然環境保全が北米の議会や訴訟を通じて活発な動きがあったように思います。そこにはさまざまな絶滅危惧種が登場していました。その象徴的な一つが70年代のスネイル・ダーターという小魚の生息域を侵すということでテリコダム論争でしょう。
その後も次々と絶滅危惧種が登場して、開発に大きな変更をお呼びしました。90年代初頭のマダラフクロウ保護と北西部森林伐採の制限は、クリントン大統領が最終的な決着をみたのでしたか。
このような運動や訴訟の中で、絶滅危惧種法(The Endangered Species Act)は環境保護派にとっては有効な法的手段となっていました。
わが国の種の保存法(正式には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」)は、92年に成立していますが、似たような名称なのに、まったくそのような機能を当初よりもっていません。
どこが違うのでしょう。私の仲間といってよいでしょうか、関根孝道さんが翻訳した『米国 種の保存法 概説』はその開発制限・環境保全に実効性のある制度枠組みを見事に翻訳・解説しています。私も原書を読んでいたので、これを日本に紹介したいと思っていましたが、私の力量ではとても叶わないものでした。地道な、そして当時としてはとても先端的な作業を関根さんはやりとげました。
その原稿用紙を見せてもらい、その内容の緻密さをみてびっくりして、詳細に字句を追っていったことをいまも記憶しています。ちょうど20年くらい前のことでしょうか。関根さんは大学や大学院の教師をして若い学生に新しい環境思想を吹き込みながら、その後も環境訴訟に取り組み、頑張っているようです。
急に『米国 種の保存法 概説』のことやESA訴訟などを思い出したのは、今日の毎日ウェブ記事<絶滅危惧種「センザンコウ」剥製出品 容疑の社長送検>を見て、わが国では、種の保存法はこういう利用の仕方しかされないなと嘆息まじりに感じたからです。
これは90年代初頭の段階でも、それまでのいわゆるワシントン条約が取引や貿易規制にとどまり、生息地・生育地保護といった基本的な法制度がないことを問題にしていたのに、いまなおそのような状況は大きな変更がないなと感じてしまいます。
記事は<うろこを持つ哺乳類で絶滅危惧種の「センザンコウ」の剥製をインターネットオークションに出品したとして、警視庁戸塚署は9日、種の保存法違反(広告禁止)の疑いで、島根県大田市の通信販売会社「フリースタイル」の男性社長(36)=同県出雲市=と法人としての同社を書類送検した。>
<書類送検容疑は2017年10月20~22日ごろ、国際希少野生動植物種に指定されているマライセンザンコウの剥製1体を「現在価格5千円」「インテリアに最適です」などと広告して出品した疑い。>
同法の次の規定に違反するということですね。
(陳列又は広告の禁止)
第十七条 希少野生動植物種の個体等は、販売又は頒布をする目的でその陳列又は広告をしてはならない。ただし、特定国内希少野生動植物種の個体等、特定器官等、第九条第二号に該当して捕獲等をした国内希少野生動植物種等の個体若しくはその個体の器官若しくはこれらの加工品、第二十条第一項の登録を受けた国際希少野生動植物種の個体等又は第二十条の三第一項本文の規定により記載をされた同項の事前登録済証に係る原材料器官等の陳列又は広告をする場合その他希少野生動植物種の保存に支障を及ぼすおそれがない場合として環境省令で定める場合は、この限りでない。
ところで、同法でも「第三章 生息地等の保護に関する規制」が規定されていて、とくに「第二節 生息地等保護区」は現行の土地利用法体系の中で、しっかりと実効性のある法制度に作っていれば、日本版ESAに近い機能を持ち得たのですが、実効性ある規定としては単体の捕獲禁止や上記のような取引規制にとどまっています。
この問題は日弁連として、96年には「野生生物の保護を求める決議」の中で、「5.種の保存法、環境基本法の制定とその問題点」を簡潔に指摘しています。私も関根さんもこのときのメンバーで、問題点を議論しましたね。
また06年には「野生生物との共生のための生物多様性保全法の制定を求める決議」で、より広範に法制度の改革を求めました。
いろいろな思い出がつい浮かんできました。中身のない議論でしたが、関心のある方は決議文で簡単に問題点、対策を指摘しておりますので、参考にしていただければと思います。分厚い報告書では、より詳細に言及していますが、これまた紹介するには適さないでしょうね。
今日はこれにて失礼します。また明日。