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大きなボラという魚のことを、シャクチというらしい。
ただ、荒山徹が描くシャクチは違う。
時は、中国で秦帝国が誕生し、前漢の武帝までの200年くらいの時代が場面設定となっている。
話はとても面白い。
特に、この時代の中国の歴史について少しでもかじった人にはたまらない話だろう。
荒山の書きぶりは、香港の有名な小説家である金庸によく似ている。
道教の影響を受けているのだろうか。
妖術や奇想天外なストーリー展開があったりする。
まず、日本へたどり着いた徐福の登場からスタートする。
始皇帝が、不老不死の秘薬を探しに日本へ派遣した道教の方士だ。
この島を納める国を、オオヤマトと呼んでいる。
殷の時代に、越という国から亡命してきた人々がヤマト土着の民族と融合して作り上げた平和的な原始国家だ。
オオヤマトは、中華文明を否定し、不老長寿の社会を形成していた。
平和な国を保ち、中国からの侵略を防ぐために、徐福に随行させてサメマという若者を中国へ潜入させる。
これが、蛇神に守護された巨人シャクチの誕生だ。
シャクチは、脱皮を繰り返し、3度まで若返ることができる。
蛇に守られた国、オオヤマト。
この地への侵略を阻止することが使命だ。
ここで、現存最古の行基図とされる神奈川県立金沢文庫に保存されている日本図を思い出す。
日本国全体が、うろこのある龍蛇に囲まれている。
縄文海進(縄文時代前期)の頃、我が国は今より気温が1~2℃ほど高かったと言われている。
おそらく、今より大きくて、数多くの蛇がいたのだろう。
蛇の化身シャクチ。
痛快で面白い本だが、ふと、中国という拡大志向国家と、平和な島国の日本のあり方が想起された。
策事を持って無益な争いを避けるというのは、オオヤマトの頃からつづくこの国の宿命であるような気がする。
徒に覇を争うのではなく、硬軟両様の構えをとることを勧めているようだ。