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旅行作家の西本梛枝さんから、浜端悦治さんのご逝去に対する弔文が届いた。
ここにご紹介したい。
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淀川源流域の春 を訪ねた日 西本梛枝
《まもなく、落葉樹林が一年中で最もすばらしい春がきます。自然に接する楽しさを、ぜひ味わっていただきたいと思います。》
「自然の道を楽しむために」と題して浜端悦治先生が書かれていた一文の最後の行です。
樹木たちが力強く命を輝かせる春が先生はとても好きだったのでしょう。
その草木たちの生きる表情を多くの人にも見てもらいたい…。その気持ちがヒシと伝わります。
秋、トチノキ観察会を行っている琵琶湖トラストでも、新緑の頃のトチノキやそのころの森の素晴らしさを語り、春にも森の観察会をするといいな、とずっと提唱されていました。
そして今年の春、五月三日、先生と県自然環境保全課の今城克啓さんの案内で《淀川源流域の春を楽しむ~ブナの若葉、満開のユキツバキを訪ねて~》ツアーが実現した。
大津駅に集合して、淀川源流の栃の木峠に行く…のでは(連休で高速道路渋滞必至)到着はいつになるやら…と思いつつ、8時出発。が、高速道路を避けて湖岸道路を走る。(さすが! 渋滞ナシ!)湖岸を走りながら琵琶湖の水草や植生などについての話もしてくださった。見慣れた風景であっても、それについての専門家の方からの話を聞きながら見ると、風景は全く新しい新鮮な領域を広げてくれる。
途中、立ち寄った道の駅・湖北みずどりステーションで、ちょっと交わした立ち話のとき、先生はニコッと笑って「伝えられるときに伝えておかないと、と思いましてね」とその日のユキツバキツアーが実現したことを嬉しそうに言われていた。今になると、……重い。そのときの先生の表情や容貌に病の影を私自身は感じなかったのだ。なのに、こんなに早い旅立ちだったとは。
〝伝えられるときに伝えておきたい〟自分の残り時間と対峙する心の底からの願いだったのだな、と、今、あの言葉をかみしめている。私たちが知ったり学んだりする知恵や知識、それは学んだ「私」個人のものではもちろんあるが、決して「私」だけのものではない。すべて先人からの〝預かりもの〟なのだ。だから、その知恵や知識は他の多くの人たちに伝えておかねばならない…。浜端先生もきっとそのように考えていらしたのだろう。「伝えられるときに伝えておかないと…」という言葉には先生の、自分の人生への感謝さえ感じられる。伝えるために語る…、行動を起こす…、ということの一つがこのユキツバキツアーの実現だった。
ユキツバキは日本海側の多雪地帯に咲く椿で、何㍍もの雪に圧されて冬を過ごすため樹形は地を這うような形で広がり、雪が溶けると枝は次第にたちあがってきて花をつける。その花も、花弁は薄く、水平に広く開く。「ユキツバキ」の語感の通り楚々とした愛らしい花である。四月中旬から五月上旬あたりが一番いい花の時期…。五月上旬、旧余呉町中河内の広峯神社周辺ではユキツバキが愛らしい花をあちこちで咲かせていた。浜端悦治先生が私たちにどうしても見せたいと思って下さった花を見ることができた。
浜端先生、ありがとうございました。
ユキツバキの愛らしく、そして強い姿を見ることができました。
これからは彼岸の野山をのんびり歩き回ってください。
合掌