DALAI_KUMA

いかに楽しく人生を過ごすか、これが生きるうえで、もっとも大切なことです。ただし、人に迷惑をかけないこと。

道(27)

2015-12-31 15:04:52 | ButsuButsu


JR東京駅の地下に「はせがわ酒店」がある。

ここは日本各地の地酒を売っており、レジには長蛇の列ができる。

酒好きの人気のスポットだ。

さてこの酒店の片隅に、グラス酒を売るスタンドが併設されている。

電車待ちや会社帰りの人々でにぎわう。

私も時間があるとき、よくここへ立ち寄る。

どういうわけか、いつも「七本槍」と「松の司」をおいているからだ。

ともに滋賀県が全国に誇る銘酒だ。

数多い全国の地酒の中で、この二種類が目立つ。

滋賀県に住む私は、嬉しくなってしまう。

先日も時間があったので、一杯やることにした。

ちょうど「ひやおろし」が終わり、新酒が出始めていた。

「ひやおろし」とは

***

春にできた新酒を夏の間貯蔵し、秋から冬にかけて瓶詰めして出荷したもの。

日本酒は通常、貯蔵前と瓶詰め前の2回の火入れ(加熱殺菌)を行うが、ひやおろしの場合は貯蔵前に1度だけ火入れを行い、出荷時は火入れを行わない。

生(ひや)で瓶詰めをすること、また秋から冬の冷える季節に出荷されることから「ひやおろし」と呼ばれる。

***

だそうだ。

気持ちよくなって3杯目に「松の司」を頼んだ。

「高いですよ」

そう言われて聞き直すと、「一杯2480円です」と言う。

マジ?

出された瓶をよく見ると、松の司純米大吟醸古酒「Black AZOLLA」限定品だった。

小売価格で1升が6800円だそうだ。

「半分にしますか?」

思わずうなずく。



AZOLLAというのは「アカウキクサ」という水草だ。

これを田んぼ一面に生やすことによって光を遮断し、雑草を断つ。

究極の無農薬栽培だ。

こうして作られた酒米を用いて醸造された大吟醸が「Black AZOLLA」だ。

ネット上では、すでに品切れになっている。

運よく半杯飲めたことに感謝して、電車に乗った。

滋賀県竜王町の松瀬酒造株式会社が作った幻の酒を飲んでみて欲しい。

その味は、次のように記載されている。

確かに、このとおりだ。

年末によい経験をした。

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立香は熟したデリシャスリンゴの香りを主体にメロンや桃を連想する香りが華を添えます。

グラスに注いでしばらくすると香りに複雑さが増し、リンゴの焼き菓子、最上級のカステラやハチミツの様な落着いた甘い香りが顔を覗かせます。

その質の高い濃密さは大切に熟成された酒のみが持つものです。含み香はリンゴ系の香りが綺麗に香ります。
 
驚くべきはその味わい!

口当たりは、驚くべき凝縮感!柔らかでありながらも非常にリッチなアタック。

時の流れをギュ~っと詰め込まれたかのようです。

味わいは芳醇な旨口。ジワリと舌に染みこむ旨味は松の司独特のものですが、その個性を更に進化させたかのような立体感、奥行き感があります。

熟成によって角が取れた究極のまろやかさ、水晶玉のような透明な旨味が素晴らしい!

良い旨味だけが酒の中心に集まったかのような味わいが凄いです!

後口は熟してまろやかになった酸味がジワ~ッと舌に染みこみます。

この酸味も開栓後、時間と共に変化していきます。

酒が切れた後の余韻も長く、心地よい吟醸香がフワ~ッと広がっていきます。

まさに夢見心地です。

この酒のテーマは「松の司の考える熟成」、そして「より自然なかたちで栽培された質の高い原料」です。

単なる「古酒」というカテゴリーだけでは語り尽くせない魅力がこの酒にはあります。

飲み頃の温度はズバリ18度。

ダイナミックかつ繊細に広がる味わいが楽しめます。

濃いとか薄いとか、淡麗とか濃醇とかと言った薄っぺらい形容がどこかへブッ飛んでいってしまう程の奥深さをこの酒は持っています。

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道(26)

2015-12-21 14:11:24 | ButsuButsu


モンゴル最大の淡水湖、フブスグル湖に、ハラ・ウスという小さな川がある。

毎年6月になると、湖から大量の魚が産卵のためにこの川を遡上してくる。

フブスグル湖の春は遅い。

冬の間に厚く張った湖面の氷が溶け始めるのは、5月も中旬を過ぎてからである。

まず、暖まりやすい湖岸の氷が溶け出し、やがて湖心まで広がる。

そして一気に春から夏へと向かうのだ。

すべての動植物が生き生きと覚醒し、子孫を残そうと懸命に活動を開始する。

モンゴルではハリウスと呼ばれる魚が、ハラ・ウス河口にある内湖に殺到するのもこの時期である。

そこにはおびただしいほどの魚影が確認される。

学名はThymallus arcticus baicalensisといい、マス科の魚である。

13種類の魚が確認されているフブスグル湖で、ハラ・ウス河口に集まるのはハリウスだけだそうだ。

標高2000m近くの水温が低い河川に生息している。

河床の石に付着した昆虫などを食べる。

大きなハリウスは、小魚や水辺に近づくリスなどの小動物を襲って食べることもある。

皆が空腹を満たそうとして狂気と化す春先には、思いもかけないことが起こる。

モンゴルの厳しい冬、十分な餌に恵まれなかった牛が、ハリウスを食べることがあるのだそうだ。

魚を食べる牛。

ミネラルが乏しいと言われるモンゴルの大地で、魚を食することによって、したたかに生き抜こうとする家畜たちの生存戦略を見る気がする。

地球温暖化の影響で、フブスグル湖の環境も大きく変わろうとしている。

凍土が溶けだし、多くの溶存有機物が湖に供給される。

そのことが湖の生産を高めている。

餌を求めて河口や地下水の噴出口に群がる魚。

こうして過剰に増えたハリウスが、競うようにハラ・ウスの川を遡上する。

自然の摂理が狂いだした瞬間。

琵琶湖の4倍の面積と、14倍の容積を持つ神秘な湖フブスグル湖で、何かが少しずつ変わりつつある。
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道(25)

2015-12-18 09:57:57 | ButsuButsu


12月16日に公表された論文について、世界中で反響があるようだ。

http://www.nature.com/news/lakes-warm-worldwide-1.19034

http://news.sciencemag.org/climate/2015/12/earth-s-lakes-are-warming-faster-its-air

研究者から見ればそうだろうなと思うけれども、マスコミ的には時宜を得た発表だったのかもしれない。

COP21での議論が終わったばかりだし、世界中で気候変動についての関心が高い。

しかもAGU大会の最中に記者発表をしたのだから余計だ。

会見の風景が、ネット配信されていた。

最近、アメリカの研究者はマスコミをうまく使っている気がする。

日本で同じことをやってもせいぜい国内向けで、決して世界中をニュースが駆け巡ることはなかっただろう。

自己満足の世界。

時々、こんなことを感じる。

黙っていたら研究者はどんどん予算が削減され、職がなくなり、研究レベルの低下が進む。

一方で、自然はどんどん変化していく。

機会を捉えて発信するしかないのかもしれない。

論文の筆頭著者であるCatherine M. O’Reilly1は20年来の友人なのだが、彼女のバイタリティにはいつも感心させられる。

日本陸水学会の会長も、東京大学の山室真澄さんに決まった。

私よりずっと発言力の強い人だけに、大いに頑張って欲しいものだ。

女性が輝く世界の方が、男性が跋扈する世界より、より色彩が豊かな気がする。

日本の学会や産業界も変わって欲しいと、心から思っている。
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道(24)

2015-12-17 16:46:33 | ButsuButsu


アメリカ地球物理学会が出版するGeophysical Research Letters に我々の論文が載った。

なんと60人以上もの人々の共著である。

こんなに多くの人々と一つの論文を出すのは初めてだ。

当然ながら、中には全く知らない人もいる。

世界中の235湖沼から集めた過去25年間に渡るデータを解析した。

これは世界中の湖沼の水量の半分に近い。

その結果、10年間で0.34℃水温が上昇していた。

この上昇速度は、大気や海洋よりも早いと結論づけている。

気候変動によって、世界中の湖沼が急激に暖まっているというのが主な内容だ。

水温上昇は、湖の生産力を低減する。

“The pervasive and rapid warming observed here signals the urgent need to incorporate climate impacts into vulnerability assessments and adaptation efforts for lakes.”

まずはきちんと監視し、記載することだろう。

実は、そのような統一的な取り組みは、世界のほとんどの国でなされていない。

むしろ時代に逆行するかのように、陸水に関わる多くの研究機関が閉鎖もしくは縮小されている。

この論文が、陸水に関する研究費獲得に少しでも貢献することを願っている。

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道(23)

2015-12-16 10:11:01 | ButsuButsu


昨日は、自律型水中ロボット「ほばりん」の試験で駿河湾にいた。

快晴の空に屹立する富士山は、絶景だった。

山頂にかかる雲が晴れることはなかったが、それなりに迫力が有ってよかった。

「こんなところで仕事ができていいね」と作業に従事する人々に語りかけたが、「毎日のことですから」と素っ気無かった。

日常の幸せというのはそんなものなのだろう。

そう言えば、湖西線の近江舞子から北小松にかけて眼下に広がる琵琶湖の景観も感動的だ。

旅行者はそれを見て窓枠に釘付けとなる。

しかし、通学する学生さんはさほど興味を示さない。

見飽きているのだろう。

もし富士山がなかったら、駿河湾の景観は締まりのないものになっただろう。

そう話すと、かの人々は頷いていた。

日常的にある幸せは、日々実感するわけではないが、実は大きな役割を果たしている。

このことを忘れないようにしたいものだ。

こうして、ロボットの試験は滞りなく終了した。

一歩、一歩、技術の階段を上がるように前進している。

天気がいいと、全てがうまくいく気がする。

富士山に感謝した一日だった。
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道(22)

2015-12-10 21:28:02 | ButsuButsu


モンゴルへ続く道は、まっすぐに続いていた。

強い意志を持って進む。

ここまで来て、挫けるわけにはゆかない。

今日、海鳴社から「琵琶湖は呼吸する」の著作権料が振り込まれてきた。

これまでのカンパを合わせると、準備金は26万円ほどになった。

これでBaasankhuu君(7才)を日本に呼べる。



来年の春には、病院での診察を受けることになるだろう。

そして、実際の手術は、夏になる。

そのときには、もっとお金が必要だ。

強い願いがあれば、少しずつ前進する。

人生は、何とかなるものだ。

そう言えば、アジア開発銀行のモンゴルプロジェクトもスタートするそうだ。

あの美しい湖と草原が、いつまでも輝いていてほしいものだ。

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道(21)

2015-12-04 10:24:53 | ButsuButsu


Tさんから「はっけん号カンパ」が届いた。

1993年、この船が進水した年に、彼は私のところで琵琶湖に関する卒論を書いた。

「覚えていないと思いますが、、、」

彼の手紙は、こう始まっていた。

あれから22年がたつ。

彼も40歳を超え、会社では中間管理職なのだろうか。

今更に、月日が経つのは早いものだと思う。

やんちゃなTさんは、小さなトラブルをいくつか起こした。

困った子だな、と思いながらもどこか憎めない青年だった。

今思えば、感受性の強い人だったのかもしれない。

いやいやながら就職していったのだが、まだ同じ会社にいるようだ。

時々琵琶湖に来ています、記されてあった。

きっと、魚釣りなのだろう。



あの頃、はっけん号は出来立ての淑女で、全てがキラキラしていた。

今、なぜか廃船にされかかっているのを、私たちが引き取ることにした。

続々とカンパの申し込みが届いている。

四半世紀が経って使い込まれ、今や堂々とした貴婦人の風格がある。

こんなに贅沢な船はないだろう。

基本設計を行う前に、2年かかってカナダ・アメリカ・オーストラリア・日本の各地を回って集めた情報が凝縮されている。

そして、その時々に、多くの学生さんたちがこの船を使って研究論文を書いた。

立派な社会人になった彼らが、こうしてカンパを送ってきてくれる。

こんなに嬉しいことはない。

教師冥利に尽きるというものだ。

最近、はっけん号のことを、老朽船だと悪口を言う人がいる。

一体何を根拠に言うのだろうか。

自分の目で確かめたのだろうか。

琵琶湖には、この種の不確かな情報が飛び交う。

この船は、あと10年は立派に動く。

嘘だと思ったら、加納船長に聞いてみればいい。

デマを撒き散らす人は、自分を貶めているだけだ。

琵琶湖であまりにも嘘の情報が多いので、検証の意味を込めて「琵琶湖は呼吸する」という本を書いた。

この本には、私たちの真心がこもっている。

売れ行きは順調のようだ。

あとは、何とかはっけん号に命を吹き込むだけだ。

生まれたものは、寿命が来るまで、大切に使いたい。

はっけん号も、そして自分の体も。

感謝に始まり、感謝に終わる。

ありがとうTさん。
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道(20)

2015-12-03 15:11:42 | ButsuButsu


琵琶湖の畔に立ち、水鳥の浮かぶ姿を眺めていると、なんだか羨ましくなる。

彼らには、彼らなりの苦労があるのだろうが、人間ほど複雑ではないのだろう。

大体に、人間は自分で求めて苦労を作っている。

じっとしていても税金がかかってくるし、払ったからといってさほど暮らしは良くならない。

所得税や市民税など、結構な金額になるのだけれども、受け取り者から礼状ひとつ来るわけではない。

当然のように請求書が来て、忘れていると督促状に遅滞金が加算されてくる。

こうやって支払ったお金のほとんどが、役人と議員の給料になる。

こんな不都合もないだろう。

琵琶湖に浮かぶ水鳥が、税金を払ったという噂も聞かない。

呆然として湖を眺めていると、次第に自分がわからなくなる。

しかたなく歩き出そうとして、驚いた。

長く間延びした黒い影が、じっと私を見つめている。



誰だ!

何のことはない、自分の影だ。

おかしいな。

12月の影は、人を驚かすのか。

それとも、慰めてくれるのか。

少なくとも、自分の影くらいは自分に優しくあって欲しいものだ。
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道(19)

2015-12-02 16:35:07 | ButsuButsu


千六本の読みがわかるだろうか。

「せんろっぽん」とも読むが、正しくは「せんろふ」というのだそうだ。

マッチ棒のように大根を切ることを指している。

中国における調理法のひとつだ。

もともと、繊蘿蔔(せんろふ、せんらふく)の唐音「せんろうぽ」の音変化から千六本があてられた。

繊は「こまかい」をさし、蘿蔔は大根である。

つまり細かな大根という意味か。

大根を千六本に刻む、という使い方をする。

ちなみに「千切り」は、もっと細かいのだそうだ。

料理の多くの用語は、中国から来ているものが多い。

「包丁」というのは、「庖丁」と書いて調理場で働く人(丁)、つまり料理人を意味する。

紀元前450年ほど前に中国にあった「魏」という国の料理人(庖丁)が、肉を調理するのに使った刀を包丁と呼ぶようになったという。

「養う」というのは、「羊を食べる」から来ている。

では、「美しい」というのは「羊が大きい」から来ているのだろうか?

実際、古代中国では、大きい羊は「美しい」と思われていた。

これは彼らが西方から来た根拠となっている。

美丈夫という言葉もあることから、確かに「美しい」とは「大きい」につながる。

ちなみに、太宰治は好んで「美丈夫」という言葉を使っている。

こうして食につながる道も奥が深い。

ところで、私のお気に入りの大津の割烹が、また一つなくなる。

お互い、年を取ってきたのだ。

とても残念だ。

チェーン店ばかり増える昨今、本当にうまいものを食べさす料理店がなくなることは淋しいことだ。

「割烹」とは、中国語で「肉を割く」という意味で、古くは牛や羊の料理方法だった。
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