子供のころガリバー旅行記を読んだことがある。
正式には、以下の長いタイトルがついている。
Travels into Several Remote Nations of the World, in Four Parts. By Lemuel Gulliver, First a Surgeon, and then a Captain of several Ships
船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる世界の諸僻地への旅行記四篇
ウィキペディアによると
「原版の内容が大衆の怒りを買うことを恐れた出版社により、大きな改変を加えられた初版が1726年に出版され、1735年に完全な版が出版された」
とある。
この本の中に、ガリバーがラグナグという国に立ち寄る話がある。
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ストラルドブラッグを見たことがあるか、と聞かれた。
その人の話によると、極めてまれではあるが、時として額にそれも左の眉毛のすぐ上に、赤くて丸い斑紋を持った子供が生まれることがある。
その斑紋をもつ子どもこそストラルドブラッグであり、絶対に死なないという正真正銘の印である。
赤い斑紋は12歳では緑色になり、そのまま25歳まで続き、そして青色に変わり、さらに45歳になると黒い色になり、その後は変化しない。
ガリバーは感激して、死に怯えずに暮らせれば、長寿によって得られた豊かな経験で人間はもっと幸福になれる、と思った。
しかし、不死ではあっても不老ではない。
ラグナグ国では、ストラルドブラッグが生まれると大いに悲しんだという。
なぜなら、莫大な国費を使って彼らを養わなければならなかったからだ。
ストラルドブラッグは経済活動や政治活動をする権利を取り上げられていた。
年を重ねれば思慮深くなり、叡智が増すというのは嘘だ。
人間は老いれば老いるほど独善的で貪欲になっていく。
そして既得権益を手放さなくなる。
世代交代はなく社会は停滞する。
だから不死人間ストラルドブラッグには決して国を掌握させてはならない、という決まりがあった。
こうしてストラルドブラッグは、死ぬことも働くこともできず、孤独にさいなまれながら、果てしなく長い時間を生きねばならない。
(朱野帰子の「超聴覚者 七川小春」の一節から)
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なるほどな、と思う。
スウィフトによって、18世紀初頭にこのような本が書かれた。
英国の社会を皮肉った本だ。
いかにして「足るを知る」か、ということが大切な気がする。
ただ、今の世の中は、じっとしていたら落ちていく世界になっている。
浮かび上がろうと足をばたつかせないと、沈んでしまう。
一方で、永遠に泳ぎ続けることはできない。
あえて立ち止まって、ゆっくり考える時間が必要な気がする。