人生には説明のつかないことが多くある。
土曜と月曜と、お葬式が2件続いて気が滅入っていた。
親しかった板倉先生のご逝去は堪えた。
気分転換に読み始めた本が、森絵都の「ラン」だった。
1968年生まれの森は、2006年に直木賞を取っている。
軽妙な文体で、私が好きな作家、というより感化される作家の一人だ。
この本、読まれた方もあろうかと思う。
読んでびっくりした。
主人公、夏目環は、ひょんなことから死後の世界へ出入りできるようになる。
彼女は、13歳の時に両親と弟を交通事故で亡くし、20歳の時に保護者だった叔母さんを亡くし、22歳の時に猫のこよみを亡くした。
多くの死と対面してきた環が、廃業した自転車屋から手作りの自転車をもらった。
その自転車屋も妻と息子を亡くしていた。
彼が作った自転車は、もともと息子のために作ったものだった。
ある日、モナミ1号と名づけた自転車が環をあの世へ連れて行った。
そこで、環は父と母と弟に出会う。
ファーストステージと名づけられた死後の世界は、この世に未練を残した死人たちが暮らす世界だった。
つまり幽霊の世界だ。
この世界では、死んだ家族たちは皆、善人となっていく。
次第に悪い心を失っていくのだ。
森絵都は、このことを「とける」と表現した。
完全にとけてしまうと、セカンドステージに移る。
完全に形をなくした死者は、他者とも渾然一体となって生まれ変わるのを待つ。
ファーストステージの幽霊たちは、マジックミラーを通すように現世を観察していた。
父も母も弟も、環のことが心配でならなかったのだ。
その後、頻繁に自転車で死後の世界へ通うことになった環。
家族との再会は、環を幸せにした。
そこに死んだ叔母の奈々美が登場する。
厳しいけれども優しかった叔母。
「自転車ではなくて自分の足で来なさい」というのが彼女の要求だった。
環を運んでくれる自転車は、自転車屋の死んだ息子に返すべきだというのが言い分だ。
何故だか知らないが、この世からあの世への距離は40kmだという。
あの世で滞在できる時間は1日だけ。
40kmを走ってあの世を往復しなければならない。
こうして、運動オンチの環は、ジョギングを開始する。
そして何故だか、マラソン大会に参加する羽目となる。
この本の中で、森絵都が自転車屋に語らせる部分がある。
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死は美化できても老いは美化できない。
美化する余地のない冷酷な、そして強烈な「生」に僕は今、打ちのめされるくらい圧倒されながら毎日を生きています。
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死後の世界を見せながら、生きると言うことを教えようとする作者の意図が見え隠れする。
板倉先生も今頃、ファーストステージのあの世から、こちらの世界を見ているのだろう。
そこは匂いも味もない世界だけれども、一切の悪が消えていく浄化の世界でもある。
二つの葬式が終わってから、何気なく読み始めた森絵都の本。
死後の世界の話。
奇妙だと思いませんか。
あなたも最近、親しい人を亡くしたのならば、ぜひこの本を読んでみてください。