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初めて平塚の港を訪れた。
薄曇りの空だったが、富士山が迎えてくれた。
いつも思うことだが、この山の良さは裾野の曲線だ。
自然が作った美の造形なのだろう。
程よい高さと豊かな広さとを兼ね備えた、空間のバランスがいい。
絵描きのブライアンに、彼が考案した曲面絵画技法を使って富士山を描くように薦めているのだが、まだ実現していない。
彼にはもう少し時間が必要なのかもしれない。
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この地にやってきたのは、水中ロボットの実験に立ち会うためだった。
BOSS-Aという自律型水中ロボットと、ABAという自律型水面ロボットの協調運用をやろうとしている。
少しずつだが、時間をかけながら困難という階段を登っていく。
どんな技術でも、どんな科学でも、いきなりジャンプをすることはできない。
時間をかけ、じっくりと、焦らずに前進することだ。
問題は、現実の社会が、そのような時間を与えてくれなくなっていることだ。
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干ばつでひび割れた大地に、集中豪雨が来たらどうなるのだろうか。
水の多くは大地の裂け目に吸い込まれ、山津波のような水害が起こる。
流れやすいところに水が流れるからだ。
そうなると人智では制御できなくなってしまう。
今の経済政策をみるようだ。
未曽有の金融緩和は、かえって経済構造を崩壊させかねない。
きちんと大地を整理し、すべての植物に水が行き渡るような工夫とデザインをしなければ、水は流れやすいところにしか行かない。
そのような知恵が、今の日本にはない気がする。
ゆっくりと社会を熟成させる姿勢も大事なのではないだろうか。
今の政治家の短慮が、この国を崩壊に向かわせている気がする。
風林火山とはよく言ったものだと思う。
信玄も眺めた富士山を見ながら、こんなことを考えた。