5.終章
人生とはわからないものである。
門田死すの訃報を日本で聞いたのは、1997年の1月だった。
「なんで?」、熊谷には、今もよくわからない。
事故だと人は言う。
門田と語り合った夜。
ネパールのために、真剣に働いていた男。
海外援助の名目で、開発国を食い物にしている人々。
理想と現実の狭間で、結局、純粋な男は倒れてしまった。
熊谷は、門田と約束をした。
それを今、切実に守りたいと思っている。
くだらないロマンかも知れないが、そこに夢があるのなら、かなえてやりたいと思う。
たとえそのことで、自分も道に倒れようとも、それでもいいと思う。
今でも、ジョムソンの地を踏みしめた瞬間を、鮮明に思い出す。
門田という、最高のガイドに案内されたカリガンダキのトレッキング。
そこが、この話の出発点であり、門田との最後の思い出となってしまった。
山歩会現役当時の、ふつふつと湧き上がる山への情熱が、また呼び起こされてしまった。
それは、もはや高い山に登ることではないが、曼荼羅の国に行ってしまった男との約束を果たさなければ終章を迎えることが出来なくなってしまった男の人生とも言える。
文献:
ネパールの集落。(社)日本ネパール協会編、川喜多二郎監修。古今書院。1992年。
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