DALAI_KUMA

いかに楽しく人生を過ごすか、これが生きるうえで、もっとも大切なことです。ただし、人に迷惑をかけないこと。

のちのおもひに

2013-04-23 01:45:37 | 物語


私が好きな詩人に、立原道造がいる。

中でも「のちのおもひに」は、いつも心の奥底に漂っている。

それは、私が生まれた島根県の山間の村につながっているからだ。

私はそこで中学の頃まで暮らしていた。

そこには母がいて、父がいて、兄がいた。

とても大切な時間と空間があった。

今日は、その詩を紹介しよう。

*****



のちのおもひに

                       立 原 道 造



 夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち

 草ひばりのうたひやまない

 しづまりかへつた午さがりの林道を



 うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた

 ───そして私は

 見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を

 だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……



 夢は そのさきには もうゆかない

 なにもかも 忘れ果てようとおもひ

 忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには



 夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう

 そして それは戸をあけて 寂寥のなかに

 星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう


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