私が好きな詩人に、立原道造がいる。
中でも「のちのおもひに」は、いつも心の奥底に漂っている。
それは、私が生まれた島根県の山間の村につながっているからだ。
私はそこで中学の頃まで暮らしていた。
そこには母がいて、父がいて、兄がいた。
とても大切な時間と空間があった。
今日は、その詩を紹介しよう。
*****
のちのおもひに
立 原 道 造
夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を
うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
───そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……
夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには
夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます