今年も女子の準決勝は男子の準々決勝の終了後に始まります。準決勝で当たる金城選手、決勝当たるであろう菊川選手、清水選手の対策について動画を見ながら確認しアップに入ります。
手島選手は筋肉と脂肪に関してイージーゲイナー(つきやすい人)でははありません。これは自分の階級内に体重を収める上では有利ですが、自分の体重に対する除脂肪体重の割合を増やしていくのは大変です。それでもウェイトトレーニングを含めたフィジカルトレーニングによって体を作り、スピードとバランス、足技の攻撃の手数、突きの強さとフットワークに関して可能な限り最善の稽古をしてきました。前年度優勝者の宿命としてマークされ、研究されそれでもその予想を超える能力を身につけることで頂点は見えると考え、指導してきました。
開会式が終わり準決勝が始まります。金城選手はフットワークのある選手です。予想通り手島選手の動きに合わせフットワークで追いながら的確に強い突きと下段を当ててきます。以前対戦した時よりもその威力、スピード共に大きく増していました。それでもそれを想定して稽古積んだ手島選手はスピードと手技の数と的確さで本戦4対0で勝利し決勝進出を決めます。
決勝の相手は準決勝で清水選手を破った菊川結衣選手でした。菊川選手は第1回から第5回までのJFKO全日本フルコンタクト大会女子軽量級の優勝者です。国際大会の経験も豊富で強い突きと打たれ強さ、持久力を待ち、無差別の大会で体重差のある実力者に対しても、胸への突きでダメージを与え勝つことができる数少ない選手です。JFKOフルコンタクト大会の第2回準決勝、第4回の決勝、第5回準決勝、全日本第50回の3回戦、第52回全日本の準々決勝。今まで手島選手の挑戦を全て退けてきました。成長する手島選手に対して越えられない壁として菊川選手の存在がありました。今回対戦するにあたり、より強い手技の攻撃で上体を切り相手の突きの攻撃の確実性を落とし、手島選手持ち前ののフットワークに手技、足技の攻撃を融合させる稽古を積んできました。中盤まで互角以上の戦いをする手島選手でしたが、終盤にかけて菊川選手の強い突きが手島選手の胸を確実に捉えます。そのまま本戦終了5対0、手島選手は準優勝でこの大会を終えることになりました。
司馬遼太郎の歴史小説「坂の上の雲」の中で、後の連合艦隊参謀秋山真之が海軍の戦闘シュミレーションで自軍を全滅させてしまった将校を叱責します。
「無識の指揮官は殺人犯なり。」
戦争においてはまさにこのままの意でしょうが、道場や仕事場でも、リーダーの知識や経験、意識の不足が、若者の可能性を潰してしまう事があるという意味で考えると、とても含蓄のある自戒の言葉として心に刻んでいます。しかし、結果を受けて全てを全否定するのも違うと考えています。手島選手が成長を続ける上で必要な稽古も確実に出来たと思います。その中で足りなかった事、方向性の違っていた点について考え、修正を加え前に進みます。
同じ「坂の上の雲」の後書きにある言葉で、当時の日本の維新後の明治人としての気質を表す言葉ではなく、私は「あらゆる困難を乗り越え遥か彼方にある目標に向かって一歩づつ歩を進める若者達を讃える言葉」として捉えています。
「登ってゆく坂の上の青い天にもし一朶(いちだ)の白い雲がかがやいているとしたら、それのみを見つめて坂を登って行くであろう。」
第7回世界ウエイト制に向けた戦いが始まっています。多くの方々のご協力無くしてその稽古は成立しません。今後とも宜しくご指導ご鞭撻、応援のほど心よりお願い申し上げます。
押忍