新年が明けてBSTBSの「名峰シリーズ厳冬期西穂高岳」ロケハンとロケに同行させて頂いた。5日と6日がロケハンで、ロケ本番は12日~14日だった。両日程とも気温がかなり低く、冬山経験の乏しいスタッフはいくつかの悩ましい問題に直面することになった。
厳冬期の北アルプスの稜線は、下界のみで暮らしている人にとってはまさに想像を絶する世界なのかも知れない。マイナス20度と言う事がいったいどんな事なのか、それは体験しなくてはなかなか理解できない次元のものだ。全ての水分が凍り付き、さらにそこに常に吹き付ける季節風が悪さをする。冬は、夏で言ったら台風並の風が、ほぼ毎日吹き続けていると言って良いだろう。風が止む日の方が圧倒的に稀である。
風速1メートルにつき、体感気温は1℃下がると言われている。この時の最低気温がマイナス19℃、風速は常に20メートルは吹いているとすると体感気温はマイナス40℃近くということになってしまう。
そんな中登山者は冬用ウェアに身を包み、毛糸の手袋にオーバーグローブ、頭には目出し帽にゴーグルを付け足下は冬用ブーツを履き、肌の露出を出来るだけ避けて、アイゼンピッケルでガシガシと歩かなくてはならない。もこもこの手袋をしていては何をするにも不自由で、ジッパーひとつ上げたり下げたりすることも容易ではないし、たとえ腹が減ったとしても、食べ物を口にする事でさえ面倒臭く感じる。日常生活の中で何気なくしていることを完璧にやり遂げる事が、冬山では重要な技術なのだ。そこら辺をちゃんと出来ない者はヘマをやらかし、パーティー全体を危険な世界へ誘ってしまう事になる。
そんな環境のなかで今回のロケは行われた。自分の面倒を見るだけで大変なのに、技術スタッフはカメラを回し、音声を録音する。モコモコの手袋越しでは、録音ボタンの感触も全く解らないから、どうしても薄手の手袋にならなければならないので技術スタッフは大変だ。おまけに通常の登山であれば、ゆっくり立ち止まらぬように歩き続けて、常に体を温め続けるところを、立ち止まりセッティングをして撮影をする訳だから、手の指や足先は冷え切ってあっという間に痛み出す。そんな中でもカメラマン達は痛む指先で複雑な機材を操作しなくてはならない。仕事とはいえそんな面倒臭いことを良くこなすものだと感心してしまう。彼ら百戦錬磨の技樹スタッフにとってもこれだけの低温と強風の中での撮影は初めてだったらしい。
ロケハンにも参加している才沢カメラマンは、ロケ当日にはカメラの保温などをしっかりと工夫してきていた。カメラを裸のままでこの環境にさらしたら、おそらくあっという間に動かなくなってしまうだろう。カメラはカバーで覆われ、中にはホッカイロがいくつも仕込まれていた。見たこともないソーラー懐炉も。それでも一時的にカメラは悲鳴をあげ、現場は撮影中止か!と騒然となった。ここまで来てカメラが動かないとなれば大変な事になってしまう。
その日の撮影を終え、冷え切ったカメラを暖かな西穂山荘に持ち込むと、即霜が張り付きそれはあっという間に氷付けになってしまう。急激に温めると内部は間違いなく結露し、カメラに決定的なダメージを与えてしまうから、小屋内の気温の低い所から徐々に暖かなところへ持って行き、2時間ほどかけて機材を温めなくてはならない。なんて面倒臭いのだろう。僕らみたいにのんびり酒など飲んでいる訳にはいかないのだ。
今回の撮影で、2台のビデオカメラは見事に回り続けた。演者の海洋冒険家白石康次郎さん曰く、今回の西穂高岳は「刺すような美しさ」だったと言う。その言葉通り、厳冬期の穂高連峰はどこまでもクリアーで眩しく美しかった。筆舌に尽くせぬとはこのことだ。きっと、そんな美しさも余すところなくビデオカメラに納まっている事だろう。技術スタッフの奮闘ぶりを想像してご覧頂きたい。放映が待ち遠しい。
BSTBS日本の名峰絶景探訪シリーズ西穂高岳
放映予定
BSTBS
2月8日(土)21:00~
BSTBS日本の名峰絶景探訪シリーズ西穂高岳ロケ同行
BSTBS西穂ロケハン